幕間
──ドドンと、銅鑼の音が木霊した。
一区切りついたのだろう。羅羽は身体の緊張をほぐす様にふっと息を吐いた。
長い夢から醒めた様な感覚にはまだ慣れず、心臓はどくどくと音を立てている。
羅羽は噛み締めるように先程の話を思い返す。どれも物語の中に入ったかのような感覚で実感は湧かない。
──にしても、同じ羅姓の商人とは何とも不思議な縁だな。
この国で羅姓のものは別に珍しくはない。しかし、もし此処が都であったならば、羅姓の商人と言えば多くの者が羅羽の実家を思い浮かべるだろう。羅羽はこの奇妙な縁に胸を高鳴らせた。
「長い長い話です。暫しお休み下さいませ」
笑いを含んだ声で講談師が言った。きっと今の奇妙な状況に恐れることも無く、心を浮き立たせている羅羽の姿が滑稽に写ったのだろう。
それに気が付き気恥ずかしくなった羅羽は見えもしない講談師の顔をちらりと伺い見て、首を傾げた。
先程より少しばかり靄が晴れている様に感じたのだ。それはほんの僅かの差だった。
そして、羅羽は一つの仮説を思い付く。
──この話が終わる頃にはこの講談師の顔を見ることができるやも!
羅羽は新しい発見にまた胸を高鳴らせた。
──ああ、此処に来て良かった!! これ程までに奇々怪々な出来事に遭遇するなど人生で何れだけあるだろうか?
直ぐに此れ程奇妙な体験が出来る人等早々いないだろうという結論に至った。羅羽だって、子供の頃に怪異に魅入られてから、長い時をかけ、探し歩き漸く辿り着いたのだ。
そもそも怪異とは探し求めても実際に体験出来るものでは無いという事は羅羽自身が一番良く分かっている。
──ああ、早く続きが気になる。この話が一体どう『紗華の大禍』や『神獣』に繋がるのか……!
羅羽が待ちきれずそわそわしていると再び銅鑼のドーンという音が響いた。
「──さてさて、月日は流れ8年が経ち、月は15歳になっておりました……」
講談師の声と共に羅羽はまた夢の中に引き込まれていった。




