友
李医師の煎じた薬と休養のお陰で数日後には、月はすっかり回復していた。
月が床から起き上がれる様になった頃、彼女の元を両親に伴われた一人の少年が訪れた。
「──お見舞い?」
長兄か次兄の何方かだろうと思っていたが、どうやら違うらしい。しかし、月を見舞う相手などいないに等しいので、誰だろうと首を捻っていると子峰は相手を教えてくれた。
少年の名は羅秀、月が山道で出会った商人の息子だ。
「はい、お嬢様。父が先日の御礼をしたいと文を送ったところ、お嬢様が病に臥せっていると伺いました。何度か煎じ薬をご用意させて頂きましたが、回復されている様で安心いたしました」
「えと、ありがとうございます?」
同年代の少年とは思えない語り口調に月が呆然としていると、義父は更に思いがけない事を口にした。
「月、彼は今日からお前の遊び相手になるのだよ」
「え? 私の遊び相手?」
あんな事があった後である。嬉しさよりも、困惑の方が勝った。聞けば、相手は一人息子で跡取り息子らしい。
何かあっては一大事だ。
「お嫌でしょうか?」
不安そうにする秀に月は慌てて首を左右に振った。
「いいえ、そんな事ないわ!」
月とて同年代の友人は欲しい。
「良かった」
ほっと安堵する少年に月は不思議に思う。
「貴方こそ嫌ではないの?」
「何故です? 月様は私達家族の恩人です」
「恩人? 私が?」
少年は胸を張って何処か誇らしげだったが、月は首を傾げる。
「先日、月様にお会いしたでしょう? そうでなければ、私達親子の命はありませんでしたよ」
崖崩れの事は聞いていたが、秀に詳しい事情を聞き驚いた。
あの時の音はやはり崖崩れか起こる前兆だった。しかし、実際にがけ崩れが起こる可能性に気が付いたのは秀の父である。月は特別な事など何一つしていないのだ。だから、秀や秀の父の対応は自分には勿体無いと感じたのだ。
それを伝えると秀はふっと笑って月にだけ聞こえるように声を潜めて言った。
「助けて頂いた恩を返すのは当然の事です。でも、我々は商人。それだけで過剰な恩返しなどいたしません。月様にそれ以上の利点があるからですよ」
それを聞いて月は驚いたのと同時に少しだけ安堵した。




