名医 其の一
「──この方が李宇軒医師なのですか!?」
月は目の前の男が椿の霊が探していた医者だと知り、目を丸くしていた。更に月を看病し、屋敷迄連れて来てくれた張本人らしい。
「青白い顔の月様をこの方が連れて来た時は本当に心臓が止まるかと思いましたよ」
そういうのは子峰である。彼が何時もと変わらない調子なので月は内心ほっとしていた。
「俺もコイツが襲いかかって来たときには肝が冷えたよ」
李医師の呟きが聞こえたが、子峰が人に襲いかかる姿等思い浮かばなかったので、冗談だと思う事にした。
「──月様、お母君の事は気に病まれないて下さい」
「え? で、でも……」
月はびくりと体を震わせた。経緯を軽くであるが話しているので、事情は分かっているとはいえ、月は許されざる事をしたのだ。
「お母君はどうなるか分かっていた筈です。気が触れていらした……いえ、だからこその行動と言って良い」
「兄上達は何と仰っているの?」
「当主とは直接お話下さい」
「はい」
月は俯いた。
「今は養生が必要だ。お前は子供で心は不安定だ。その邪眼があるとはいえ、強力な怨念に心を支配される場合もある。その場合、呪い殺されるか、死なない場合はもっと厄介な事になる」
「李医師!」
子峰が言葉を遮ろうとするが、李医師は気にせず続ける。
「いいか、お前は知っておく必要がある。自身がどれ程脅威になるか。ここでしかひっそりと暮らしていくとしてもだ」
月は自身の力がどれほど恐ろしいものか身を持って実感した。だから、李医師の言い分が理解出来た。
「教えて下さい。私の力の事、使い方」
月が李医師を真っ直ぐに見据えて言うと、彼は少し虚をつかれたような表情をした。しかし、直ぐに満足そうな笑みを浮かべる。
「ああ、当然だ。なにせ、お前は俺の患者だからな。だが、今はまだ眠れ、本調子ではないだろう? 身体が完全に回復したら話してやる」
そう言われ再び布団の上に転がされた。
「もう、眠くないのに……」
そうボヤくが睡魔は直ぐに襲ってきて、再び月は深い眠りに落ちた。




