呪いの剣 其の五
目を覚ました月は目を疑った。
──屋敷? 私、山にいて……?
山の中にいた筈の月は屋敷の自分の部屋に横たわっていたのだ。側には見慣れた赤毛の女性・側付の梅の姿があった。
「……め、い?」
「月様? 月様! 月様がお目覚めになりました!!」
慌てて誰かを呼びに行く側付の梅の声にぼんやりと思考する。
──私、夢でも見ていたのかしら?
怨念の籠もった呪いの剣に妖艶な妖狐。どれも現実味がない。しかし、屋敷の離れで見た母の顔とその手の温度を思い出し、全身の血の気が引くのが分かった。
──あれは夢では無かった!
月は布団の中に潜り、縮こまる。ドタドタと屋敷内を駆け回る足音が妙に大きく聞こえた。
「月!? 月、目を覚ましたのかい!?」
「月、何処か痛むの?」
優しい養父母の声が布団越しに聞こえ、身を固くした。
「月よ! それでもお前は梁家の子か!!」
「ふわぁ!!」
一際大きな怒声と共に布団をめくりあげられた。
月の布団をめくったのは目尻を釣り上げ、恐ろしい形相をした長兄・梁篤明であった。
──あ、兄上!
驚きのあまり口をはくはくと動かす事しか出来ない。そんな月の事等お構い無しに篤明は月の寝ている牀の横にでんとあぐらをかいて座った。
「月よ! 一体何があったのだ!」
「篤明! 月は今起きたばかりなのだよ」
「話を聞くのはもう少し後でも……」
養父母が篤明を宥めるも、篤明は月の前から動こうとしない。
「月よ! お前の中には高潔な梁家の血が流れているのだ! 言い訳など許さぬぞ」
「騒がしい!」
更に言い募ろうとした篤明の頭を誰かが引っ叩いた。その音と声に月は更に目を丸くする。若輩者であろうと現梁家当主の頭を引っ叩く無礼者など梁家にはいないからだ。
月は、兄を叩いた主を見た。年は子峰と同じか若いくらいの年齢だろう。小柄で篤明同様に凄まじい形相をした男が子峰に羽交い締めにされていた。
──えっ、誰?
月には全く見覚えのない御仁であった。




