呪いの剣 其の四
突進した天天を玉はひらりと躱した。しかし、天天はそのまま、月を背に乗せるとそのまま山の中を駆け出した。
背後からは「あらあら」と嗤う玉の声がしたが、追い掛けて来る気配はなかった。
──嵌められたのか、このまま月を放置するつもりだったのか……。
玉の真意はわからないが、今は月が先決であると考え天天はもつれそうになる足を必死に動かし、とある場所へと向かった。
「──老師! 居ますか!?」
天天は小さな小屋の扉を勢い任せに開くと同時に声を掛けた。すると、薄暗い小屋の中から怒声が返って来た。
「うるさい! そんな大声を出さなくても聞こえている!」
その声に天天は安堵した。天天は狐の姿のままその小屋に入ると、奥にいた男に話し掛けた。
「李老師、貴方に診て頂きたい患者がいるのです!」
李老師と呼ばれた男は天天のせにいる月の姿に気が付き、顔を青くした。
「直ぐに下ろせ! お前、一体この子に何をしたんだ!」
「私がした事ではありません! 兎も角、この子を診て下さい!!」
李老師は一先ず、剣を握っていない方の手の脈を測る。そして、悍ましい怨念の篭った剣に目をやり、冷や汗を浮かべた。
他に患者がいない事が何よりの救いだった。修練を積んでいる李老師と天天でなければ、剣から尚も溢れ出す怨念に耐えられなかっただろう。
「此れだけの怨念を受けて生きられるなど、この子は人か?」
「説明は後でします。ですが、この子が人から産まれたのは間違いありません」
天天の物言いに李老師は眉を顰めた。
「身なりからして、何処か名家の子供か?」
「ええ、……梁の家の子です」
「はっ、寄りにも寄って!」
自嘲気味に李医師は笑う。その様子に天天は不安になる。李老師こと李宇軒は元黄家の人間だ。黄家と梁家には少なからず因縁があり、その関係は複雑だった。
「見捨てたりしませんよね?」
不安そうに尋ねた天天に李老師はきっと睨みつけた。
「この俺に患者を見捨てるという選択肢等存在しない!」
言い切った李老師に天天はほっと安堵する。そして、未だ青い顔の月を見て心を痛めた。
──どうか無事で。




