呪いの剣 其の二
余りにも上からの物言いに唖然としながらも、月は状況を理解しようと努めた。
──『我が記憶』ということは先程の光景はこの剣が体験した事なのかしら? あの印象に残っている男の人はもしかすると、持ち主かも知れないわね。
「──さて、お前はどうする?」
ニタリと嘲笑った剣の霊の口元にはちらりと犬歯が覗いており、よりこの剣の霊を凶暴に見せていた。
「貴方の力があれば、私はこの目の力を制御する事が出来るのかしら?」
月が自身の目を示すと剣の霊は月にぐっと顔を近づけ、その蒼い瞳で月の瞳を覗き込んだ。
「成る程、邪眼か。それもかなり強力な。その邪眼が我の力を防いでいたと見える」
「分かるの?」
驚いた月が問うと剣の霊は胸を張る。
「分かるさ。我は霊剣。本来、持ち主を守るもの。また、我の主は武勇に秀で、数々の邪悪を払って来たのだ! その私が知らぬはずあるまいよ!」
「本来の貴方が神聖な霊剣であったとしても、今は貴方がとても邪悪なものだわ。何があったというの?」
月は現在の剣の霊の悍ましい気配に眉根を寄せる。その反応に剣の霊は忌々しそうに顔を歪めた。
「はっ! 我は我の主とその一族を滅ぼした者に報復する為よ」
「ほ、報復?」
月はぎょっとして剣の霊から一歩下がった。
「ああ、我の主は一族を惨殺された上に無念の死を遂げた! 主は我に一族を貶めた者を抹殺し、尚且つ一族達を呪いから解き放つことをお望みになった! 我は、その望みを叶えるべく、この姿となったのだ」
──主の怨念が剣に取り憑いたということかしら?
だとするならば、その怨念とは凄まじいものである。触れたものを死に至らしめる程の呪いなのだから。
「貴方は触れたものを死に至らしめるのでしょう? もう貴方の主を殺めた者たちはいなくなったのではなくて?」
そう言えば、剣の霊は眉間に皺を寄せ言った。
「見つからぬのだ」
「え?」
「主の一族の遺骸は呪詛に利用された様なのだが、その後の行方が知れぬのだ。我は見つかるまで探し続けなければならない」
──呪詛、呪い……一体何があったのかしら?
物騒な言葉に月の背に冷や汗が流れる。
「力は貸そう。その代わり、主の一族の遺骸を探せ、何年かかっても良い。お前の命尽きるまでに見つけ出せ」
「!」
月は息を呑んだ。剣の霊の蒼い瞳は冷たい炎を宿していた。