呪いの剣 其の一
目を開いた先に飛び込んで来たのは、燃える盛る炎に逃げ惑う人々の姿だった。彼方此方で怒声や悲鳴が聞こえ、月の剣を握る手に自然と力を込もった。
──これは何? 何が起きているの?
見える景色全てが初めて見るもので月は酷く困惑していた。
更に様々な感情が月の中に問答無用で入り込んでくるものだから、その感情の渦に月は息が出来なくなりそうだった。
──苦しい、悲しい。
月の目の前を一人の男が通り過ぎた。傷だらけの男である。その男は光景に呆然としてその場に崩れ落ちた。
その背後には敵兵の姿。
──逃げて! 早く逃げて!
月がそう叫ぶも男には聞こえていない。
男は剣をを持った敵兵が直ぐ側まで来ている事にすら気が付いていない様子だった。それ程に男は眼前の光景絶望しているようだった。
敵兵が男に向かって剣を振り下ろす。月の目の前で男の血が飛び散った。
その瞬間、月は真っ暗な暗闇の中にいた。前後左右もわからない空間で自分が誰かも忘れてしまいそうだった。
──あれは何だったの?
月が呆然としていると、ボッと黒い炎が燃えているのナ気が付いた。燃えている筈なのに全く熱さを感じず、寧ろ酷く冷たく感じる。
「──お前は誰だ? 何故ここにいる?」
声がその黒い炎から発せられていた。炎は瞬く間に大きくなり、気がつけば青い目が印象的な長髪の青年に変わっていた。
──人ではない。
見た目こそ人に見えるが、彼の頭部には黒々とした角が覗いており、彼が人でない事を印象付けていた。 そして、彼は何処かしら椿の霊を彷彿とさせる雰囲気を纏っていた。
しかし、彼女よりも格段に恐ろしいものである事は明白だった。
「貴女は……剣の霊?」
数少ない知識を持って訊ねると、青年は頷いた。
「如何にも。そう言うお前は何者だ?」
「私は……」
「ただの人だ」と答えようとして、月は言葉に詰まった。果たして、見ただけで人を塵に変える目を持つものが人と言えるのだろうかと考えたからだ。
彼は月の答えなど興味がないのか「まぁ、良い」と一人頷く。
「お前が何であれ、我に触れて尚無事であるのは稀有な事よ」
彼は一人感心した面持ちで月を見た。その目は何処となく悲しげだった。
「並の人ならば、我に触れた瞬間瘴気に耐えられず儚くなっていたであろう」
「なっ!?」
月は絶句した。そんな恐ろしいものに触れていた等と思わなかったからだ。
「だが、お前は我に触れ、我の記憶を覗き見て、我と対話した。お前が私の手足となるならば、お前に力を貸してやろう」




