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紗華国妖魔奇譚  作者: 空色
第三章 紗華の大禍の誕生・前編
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妖狐 其の五

 気が付けば、(ユエ)は山の中を我武者羅に走っていた。

 目の前で塵になる姿を見て、月は激しく混乱していた。


 ──何処か人のいない所に……。


 蠢く虫の気配はゆっくりだが、月の後を追ってきている。その気配から逃れる様に月は足を只管動かした。


「あっ!」


 足がもつれて転びそうになり、身構えた。しかし、衝撃が月を襲うことはなかった。


「──あら? 貴女そんなに急いでどうしたの?」


 あの妖艶な妖狐──(ギョク)が月を支えていたからだ。月は混乱したまま、本邸の離れであった事を話していた。


「──それは凄く怖かったわね。でも、私なら大丈夫よ。そこら辺の妖魔より強いから」


 戯けて見せる玉に月はほっと息をついた。


「それに私、物知りよ。天天(テンテン)よりも」


 玉の口がきれいな三日月を描く。その口元に僅かに犬歯が覗いていた。


「じゃあ、この目もどうにか出来る?」

「ええ、勿論」


 そう言うと玉は月の手を取り立ち上がった。月は玉に手を引かれるまま山の中を歩く。


「何処に向かってるの?」

「直ぐに分かるわ」


 山の奥は薄暗く、嫌な気配がする。しかし、代わりにあの虫の蠢く気配はついて来ない。


 ──ついて来なんじゃない。ついて来られないんだ。


 奥に行けば行くほど、濃くなる嫌な感じに月はそう感じた。

 玉に手を引かれるまま歩き続けてポッカリと空いた空間に出ると、その正体は判明した。地面に突き立てられた一本の剣。


「ひっ!」


 月は剣から発せられるその悍ましい気配に身を強ばせた。


「大丈夫よ」


 玉にそう言われても全く安心出来なかった。


「あの剣は何?」

「呪いの剣よ」

「呪い?」

「ええ、触れるだけで人を殺す事の出来る剣」

「そんなものが何故こんな所に?」


 月は山の中を散策していたが、そんなものの気配は全く感じなかった。


「私が持って来たの。貴女の為にね」

「私の為?」


 その言葉に月は目を見開き、玉を見た。当然ながら、目隠しをしている月には彼女の表情は分からない。だが、何故か今彼女が怪しく微笑んでいると思った。


「ねぇ、知っているかしら? 邪で邪を払う方法があるのよ」


 月には玉が何を言おうとしているか分からなかった。


「なら、強力な呪いには強力な呪いをぶつけても効果があると思わない?」


 月の肩に玉の手がそっと置かれ、耳元で彼女は囁く様に言った。


「月、あの剣を手に取りなさい」

「えっ、でも……」


 躊躇する月に玉は更に囁く。


「あの剣を手に入れれば、貴女はその呪いの目を制御する事が出来るようになる。躊躇う必要はないでしょう?」


 玉が月の肩を強く押した。その勢いのまま剣の前に倒れ込む。


「それに死んだって文句は言えないでしょう? だって、貴女は母親殺し何だから」


 凍てつく様な玉の言葉に月は剣の柄を掴んでいた。





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