表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紗華国妖魔奇譚  作者: 空色
第三章 紗華の大禍の誕生・前編
60/217

妖狐 其の一

「──母上の容態が良くないのです」


 押し殺した声の主は若干17歳にして(リャン)家の当主を継いだ梁篤明(リャン・ヅーミン)だった。


「医者は何と?」

「もう、永くはないと」


 ──母上……。


 兄と養父のそんな会話を盗み聞きしてしまい、(ユエ)は何とも居た堪れない気持ちになった。

 時折、養父母の会話から自身が実子ではない事を知ってはいたが、母については殆ど聞いた事がなかった。


「──篤実(ヅーシ)兄様、母上はどんな方なの?」


 ()()()離れにやって来ていたニ番目の兄に尋ねてみた。


「病でずっと本邸の離れで療養しているんだ。僕も殆ど会った事無いよ。でもね、どうしても会いたくなったら──」


 少し淋しげな表情をした篤実は、月に顔を近づけてそっと耳打ちをした。


 ──母上はどんな人だろう。


 そんなモヤつきを抱えた月は何時も通り、天天(テンテン)の元を訪れたが、生憎と彼女の姿は無かった。彼女は時折、姿を見せないこともあり、がっかりとするものの大して不思議には思わなかった。


「──貴女が天天の弟子?」


 その帰り、魅惑的な声の主が月に話し掛けてきた。彼女は天天の姉弟子に当たる玉という妖狐だそうだ。


「ふふ、天天が弟子を取ったというから見てみたくてね。来ちゃった。天天ったら、また何処かふらふらしてるのね」


 彼女の声は酷く心地良く、聞いていると不思議な事に頭がふわふわとしてくるのだ。そのせいか月は直ぐに彼女に気を許してしまった。


「──まぁ、お母様がご病気なの? それはとても心配でしょう」


 ──あれ、私何でこの人にこんな事を話しているのかしら?


 そう頭の隅で思うものの、月は喋るのを止められなかった。


「お母様には、会おうと思えば会えるのよね? なら、会ってみると良いわ」

「でも……」


 月は玉の提案に逡巡してしまう。


「だって、会えなくなってしまうかも知れないのよ? それで良いの?」


 月は急にこの玉という女が怖くなって、その場から逃げ出した。


 ──それでも良いの?


 家に帰るまで、玉の言葉が頭にこびりついて離れなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ