商家の少年 其の二
羅秀とその父は急いで来た道を戻りながら、擦れ違った商人達に迁回するように言ってまわった。
聞いてくれる者もいたが、先を急いでいる者たちはそのまま山道を通って行った。
「──ねぇ、父さん。本当に崩落なんて起きるの?」
正直、秀にも信じ難い話だった。
「以前会った異国に留学していたという医者に聞いた話なんだがな。視覚や聴覚といった五感が欠落している者はそれを補う為に他の器官が鋭敏になるらしい。あの子は目を患っていただろう? もしかすると、私達には聞こえない音が聞こえているんじゃないかと思ったんだ」
「それだけで崩落が起きると思ったの?」
秀は父の言う事に納得がいかず、口を尖らせた。
「いいや、それ以外にも勿論理由はあるさ。此処の辺は連日長雨が続いていたろう? もしも地盤が緩んで音がしていたらって思ったのさ」
「でも、そのもしもが起きなければ、僕達はいい笑い者じゃないか!」
「杞憂なら尚更良いじゃないか。全ては命あってのものだね。心配し過ぎなくらいが丁度良いさ」
そう言って秀の父は剝れる彼の頭をぐりぐりと撫でて宥めていた。
──数日後
迂回して漸く都に到着した秀親子の耳にも山道で崩落があったという報せが届いた。山道が塞がる程の大崩落事故で多くの人が巻き込まれ亡くなったらしく、羅親子の話を聞いて迂回した者たちは彼等にとても感謝していた。
秀の父もまさかこれだけの大事になるとは思っておらず、崩落事故の大きさを知った後は彼自身顔を青くしていた程だ。
「──一歩間違えば、あの崩落事故に巻き込まれて亡くなっていたと考えると、あの梁家のお嬢様には何と礼を言って良いものか」
「本当に幾ら感謝しても足りないくらいだわ。事故の話を聞いた時、貴方達も巻き込まれたのではないかと思って生きた心地がしませんでした。戻って来てくれた時はどんなに安堵したか」
そう言って、どうにか礼をしたい秀の両親葉は梁家のあの少女に直接会って礼をしたいという旨の文を送ってみることにした。
しかしながら、相手は名家である。幾ら礼を言いたいからと一商人が簡単に会えると思っていなかった。
数週間の後、梁家の当主から直々に了承したという旨の文を受け取った時は家族総出で喜んでいた。




