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紗華国妖魔奇譚  作者: 空色
第三章 紗華の大禍の誕生・前編
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古椿の霊 其の参

 医者の男探しは難航を極めた。

 何せ情報が古椿の霊からのみで時期や詳しいことが分からない。なので、古い資料を片っ端から探っていくことにしたのだ。

 しかし、字の読めない(ユエ)は全く役に立たなかったのだ。

 梁家の周辺の山で人が消える怪異に絞って探してみるが、量が膨大なのでなかなか進まない。


「あの古椿の霊に何か他に覚えている事がないか聞いて見ようかしら?」


 いたたまれなさにそんな事を呟けば、「それはなりません」と窘められるものだから、結局調べ物をする子峰の横でただじっとしている事しか出来なかった。


「呪術に精通した目元の涼し気な医者かぁ」

「──似顔絵を描いて見たら良いんじゃない?」

「似顔絵?」


 古椿の霊が探す男の特徴を口にすると、2番目の兄である篤実(ヅーシ)が口を挟んだ。

 彼は修練が嫌いで逃げだして来ていたのだが、今日は子峰の手伝いをする代わりに見逃して貰う事となったのだ。それでも、修練や勉学よりはマシと彼も一緒の調べ物をしてくれている。


「それは良い案ですね。私には絵の才がありませんので思い付きませんでした」


 何でも子峰が絵が余りにも下手で何を描いても全く違うものになるらしい。


「なら僕が描くよ!」


 何時になくやる気に満ちた兄に少し驚きつつもお願いする事にした。


「ですが、涼やかな目元以外は顔の特徴が分かりませんよ」


 子峰がそう言うと、篤実は少し考えて、紙を小さく切り始めた。そして、その紙に目、鼻、口を何枚か描いて子峰に渡した。


「福笑いですか?」


 子峰にはそれが何か直ぐに分かったらしい。福笑いという輪郭を描いた紙の上に目鼻口などを並べて顔を作る遊びだそうだ。


「そうだよ。その古椿の霊に渡して顔を作って貰うのさ! これなら、絵が描けなくても似顔絵を作れるだろう」

「凄い名案だわ!」


 胸を張って言う篤実に月は感心する。一方、紙切れを渡された子峰は苦笑していた。

 少し気になってこっそり子峰に訊ねると彼は月に理由を教えてくれた。


「篤実様はちゃっかりご自身が古椿の霊に会わなくても済むような方法を取られようとなさっています。それが、篤実様らしいと思いまして」


「まぁ、人を喰らうような危険な妖魔の所に子供を連れて行きませんが」と子峰は付け足した。

 まあ、気の弱い篤実が妖魔の元へ自ら行くとは考えられなかったので、不思議はなかった。それでも、その医者の顔が分かれば状況は進展するだろうと思い、月はやっぱり兄上は凄いと感心するのだった。






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