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紗華国妖魔奇譚  作者: 空色
第三章 紗華の大禍の誕生・前編
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花園の主 其の四

「良い案だわ……」

「そうでしょう!」


 当然とばかりに花魄(カハク)は自慢気だが、(ユエ)は何とも表現し難い気持ちになった。


 ──でも、素晴らしい舞とはどの様なものかしら?


 月も一応は名家の娘なので、義母から舞は手習いの一つとして習っていた。とはいえ、義母の教える舞しか知らぬため、()()()()()()というものが想像つかなかったのだ。


 ──お母様も(メイ)も何時も褒めてばかりだけど、二人は私に甘いから判断基準にはならないわ。


 月自身の周りが自身に甘いことは理解していた。唯一、正確な判断をくれそうなのは兄・篤明(ヅーミン)だけだが、彼にはまだ自身舞を見せたことが無かったのだ。


「ねぇ、その舞手はどんな舞を舞っていたの?」


 困った月は花魄達に訊ねた。


「──素晴らしい舞だ。空を舞う蝶の様な。風に舞う花弁の様な……。本当に美しかった」


 しかし、その問いに答えたのは意外な事に泣き声の主だったのだ。その瞬間、言葉と共に月の脳裏に見たこともない風景が浮かんだ。


 ──何、これ?


 月の明かり照らされ舞う女。彼女が舞う度、彼女の衣装もふわりと浮き上がる。その様は本当に泣きたくなる程美しかった。


 ──これが()()()()()()というものなのね。


 月はこの光景は泣き声の主が見せたものだと瞬時に理解した。きっと、その舞手が何れ程素晴らしかったのかを伝えたかったのだ。


 ──私に舞えるかしら?


 自分が舞ったとしても酷く滑稽なものになるかもしれない。けれど、今は舞うしかないだろう。

 月は意を決して、泣き声の主の前で舞い始めた。先程、見た舞手の真似をして、手を高く上げ、くるりくるりと舞う。ただ無音の中で無心に舞に集中した。






 月が舞を一通り舞終わった後、泣き声は止んでいた。


「──私の舞は、どう、でしたか?」


 息が切れ切れになりながら、月は泣き声の主に訊ねた。


「ふん、大した事はない」


 ──やっぱり、不格好だったのね。


 月は少しがっかりしながらも、泣き声の主が言葉を返してくれるのが嬉しかった。


「だが、気晴らしにはなった」

「それは、良かった」


 月は心からそう言った。






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