鬼の隠れ家 其の一
──5年後
こじんまりとした屋敷の縁側で子峰は一人遊びする幼子を見守っていた。幼子は目元を隠すように包帯が巻かれている。しかし、まるで見えているかのように動き回る。
この幼子こそがあの嵐の夜に産まれた赤子であった。あの日産まれた鬼子は公には死んだものとされた。
しかし、実際には当主の腹心であり、弟である梁忠敏の子・月として引き取られこの本邸から離れたひっそりと佇むこの屋敷で囲われる事となった。それに合わせて、あの場に居合わせた子峰と梅はその子供の側付きに変わった。
他に適任者がいなかった為の人選ではあったが、周囲からは失態を犯したことによる左遷として扱われた。まあ、出世欲のなかった子峰にとっては大した問題ではなかったのだが。
──平和だなあ……。
子峰は縁側でそんな事を思う。
産婆を塵にした力の正体は多くの文献や禁書を紐解いて漸く辿り着いた。
その正体は邪眼。それも保持者を蝕む程強力な邪眼である。救う術は未だに見つかっていない。
あれから5年経ったが、特に大きな問題無く過ごせている。赤子の守りは最初こそ大変ではあったが、対処法が分かってしまえばずっと楽になった。
今の小峰の仕事は子供の世話と護衛。四六時中注意を払わねばならないが、代わりに戦地へと赴く事もない。
──今は護符を描いた布で抑えているが、何時まで持つか。邪眼の力が勝るか、邪眼の力を制するか。
邪眼の力が勝って朽ち果てるならばそれまでだが、邪眼の力を自在に操れるようになった時、彼女が脅威となる事は明白だった。
「?」
月が不意に顔を上げじっと一方を見つめている。何かあるのかと思い、様子を伺っていると急に立ち上がり、子峰の方を振り返った。
「──子峰、兄上が来る」
幼子の声に子峰は首を傾げた。
すっと耳をすませてみるが、特に物音はしない。子峰はかなり耳も目も良く、人の気配に敏感ではあったが、周辺に人の気配を感じられなかった。
──何も聞こえないが……。何れ程遠くの音が聞こえているのか。
そう思いつつも篤明が来るのが嬉しいのか何処かそわそわしている月を微笑ましく思いながら、子峰は立ち上がった。
「では、篤明様をお迎えに行きましょうかね」
「うん!」