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紗華国妖魔奇譚  作者: 空色
第三章 紗華の大禍の誕生・前編
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鬼子 其の一

 豪雨の中一頭の馬が駆け抜けた。

 その背に乗っているのはまだ若い男──少年と言っていい程の年頃だった。彼は傷だらけだったが、振り落とされない様に必死に馬にしがみついていた。馬が水と泥を四方へ跳ね飛ばしながら駆けていく。

 彼はとある屋敷の前に辿り着くと馬を強引に引き留め少年はそのままの勢いで馬から転げ落ちた。馬の鳴き声に気づいたのか門が開き、数人の男女が何事かと出て来た。彼らは倒れている少年に気づくと急いで彼を抱えた門の中に引き入れた。少年は痛みを堪えながらも大声で叫んだ。


「───奇襲有り! 当主様が!!」


 伝令の言葉を聞いた中心人物と見られる女はその場に崩れ落ちた。この女の腹は大きく見た目にも臨月だという事が伺えた。泣き崩れる女を両脇から侍女二人が支えている。片方は腹の大きな女と年の近い女でもう一人は毛色の違う若い女だった。

 腹の大きな女はただただ涙を流していたのだが、突然腹を抱えた苦しみだした。産気づいたのだ。周囲は一層慌ただしくなった。侍女二人は女を抱え屋敷の中に運び込む。それ以外は右往左往と走り回っていた。


「───!!!」


 数刻の後に嵐の中を劈く様な赤子の声が木霊する。同時に一際大きな雷が落ちた。

 周りも赤子が産声を上げたことで少しばかりの安堵に満ちた。

 しかし、赤子を抱き上げた産婆の表情が驚愕に変わる。ぞわぞわと産婆の身体、顔を虫が這う様に黒く染まる。全身が黒く染まった産婆はボロボロと砂の様に崩れ落ちた。赤子も一緒に布団の上に落ちると、火が着いた様に泣き出した。周囲はその異様な光景に息を飲んだ。


「ひっ!!? 鬼子!?」


 布団の上に落とされた赤子を見て誰かが悲鳴を上げた。赤子の目が黄金に輝いていたのだ。そして、その赤子の周りには黒い()が少しづつ集まっていた。それは隙間という隙間から這う様にやって来る。


「払魔の符があるのに何故!?」


 部屋にいた誰かが悲鳴の様な声を出す。この黒い靄は邪気であり、効力のある祓魔、魔除けの札があれば祓うことが出来るのだが、全く効果が無いようだ。

 突如として女は笑い出した。周囲の人々がぎょっとするのも構わず、女は嘲笑いながら、躊躇うことなく自分が産んだ子供にすり寄った。


「この子は旦那様の子よ! そして、()()()()()!!」


 周囲が座喚く。女は赤子を持ち上げ、構うこと無く続けた。


彼奴等(あやつら)に報復する為に蘇ったのよ!!」


 火の着いた様な赤子の泣き声と女の狂った様な笑い声が嵐の中を木霊した。



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