梁家の武人 其の一
「──張当主、何処か具合でも悪いのかい?」
薬包を見て清孝が心配そうに尋ねた。
「いえ、此れは……」
「梁家のお嬢様の見舞いの品です!」
皓然が答えるよりも先に白楽が先に答えた。
「梁家のお嬢様?」
「明鈴嬢の事です」
清孝が首を傾げたので、皓然か付け足すと、合点がいったのか成る程と頷いた。その様子を不自然の感じた白楽が清孝に尋ねた。
「あれ? 郭当主は明鈴嬢とは親しくないのですか?」
「そうだよ。清海とは親しくしていたようだけれど、彼女はあまり私の前には出て来てくれなかった」
その返答に皓然と白楽は目を瞬かせた。無表情で何を考えているか分からない清海よりも清孝の方がどう考えても温和で親しみ易いからだ。
「では、郭当主は梁明月殿とは親しいですか?」
「明月殿かい? いや、特に親しくはないな。親しくしたいとは思っているが、なかなか話す機会もなくてね。でも、それが何か?」
次いでとばかりに尋ねる白楽に皓然は内心ひやひやするが、幸い清孝の方は気にした様子は無い。
「今丁度彼の話をしていたんです。私達は篤実とは親しいですが、彼から明鈴嬢や明月殿の話は聞いた事がなありませんでした。明鈴嬢の存在もつい最近知ったばかりでして」
「確かにあの子達は何方も幼少期は体が弱かったと聞いている。付き合いがなくて当然だろう」
「明月殿も?」
此れは初耳であった。
「ああ、顔を隠しているのはその病のせいで顔が爛れているからとも言う人もいるね。実際のところは私も知らないのだが」
──疱瘡にでも罹ったのだろうか?
幼い頃に疱瘡に罹ってその跡が残るのはよくある事である。しかし、あまり見て気持ちの良いものではない。疱瘡の跡を隠す為だとすると、あの奇妙な面も納得出来た。
「明月殿は郭当主から見てどの様な方ですか?」
「白楽!」
更に質問を続ける白楽に皓然は静止をかけるが、内心では明月がどんな人間なのかは気になっていた。清孝は少し考えてから口を開いた。
「親切な人、かな?」
「親切?」
一名家の武将の評価としてはどうなのかというところである。
「正直、私も彼の人となりはよく分からないが、親切な人というのは確かだよ」
呟くように言いながら一人納得する清孝は首を傾げる皓然達に理由を話してくれた。
「あれは数年前の事なのだけれど──」




