土産
「──後味が悪い!!」
清海の話を聞き終えると、早速白楽が不満そうに声を張り上げた。湿っぽい雰囲気になっていたので、皓然は少しだけほっとした。
「こんな話を明鈴嬢に土産話として話すのか? 女の子相手に話すなら、人間と花神の悲恋とかの方が喜ばれないか?」
白楽に言われ、今更ながら皓然ははっとするものの、清海が善意で見せてくれた報告書である。文句を言うのは憚られて、横目で清海をちらりと見て、ぎょっとした。
「駄目だろうか?」
心無しかしゅんとしている……様に見えたのだ。彼は基本的に無表情の事が多く何を考えているか分からない人間であった。そんな彼が沈んだ表情をしている。此れは流石に拙いと思ったのだろう白楽は慌てて付け足した。
「まぁ、判断するのは明鈴嬢だ。彼女が気に入れば問題無い! なっ!」
「ああ、そうだな!」
皓然も同意すると、清海は何時もの無表情に戻っていた。何となく気疲れを感じた皓然は清海に礼を言うとそそくさとその場を後にした。
「──見送りなんていらないのだが?」
「まぁそう言うなって!」
見送りと言い張って、隣をにこにこと歩く白楽は相変わらず馴れ馴れしい。
「土産の品もあるし、早く会いに行けよ!」
皓然は手元の白い包を見た。薬包である。清海から明鈴に対する見舞いの品であった。必然的に明鈴に会う用事が出来てしまったので、内心皓然は溜め息を漏らす。
そんな皓然の心情を知ってか知らずか、悩ましげに眉を寄せて言った。
「しっかし、何で篤実もお前なんかに頼んだのかねぇ?」
「どういう意味だ?」
皓然が睨もうが白楽は何処吹く風で続ける。
「何もお前に頼まなくても、梁家にだって話し相手位いるだろう? 例えば……、梁明月とか!」
「彼奴も篤実の親戚だろう?」そう言われ、何となく皓然は面白くなかった。
明月は皓然よりも若いが優秀な武人で、その実力は張家当主の皓然とも並ぶと言われていた。その為、負けず嫌いの皓然は彼を好ましく思っておらず、更に彼が常に白い面で顔を隠すなど得体の知れない雰囲気がそれに拍車をかけていた。
「──おや、張当主いらしていたのか?」
そんなやり取りをしていると、不意に声をかけられた。二人揃って声のした方を向けば、そこには今戻って来たらしい郭家の当主・郭清孝の姿があった。