地主の依頼 其の二
「──もう少し詳しく聞かせて戴きたい」
老師が頼むと林氏は頷いて続けた。
──西伊州には、我が林氏の他に周家という豪族がおり、林氏の治める土地から小さな山を挟んだ先にある町を納めています。
この周家には紅蘭という町で一二を争う程の美しい娘がおりました。
ある日、所要で出掛けた帰り道で紅蘭が人攫いに襲われる事件が起こったのです。しかし、偶然居合わせた我が家のその亡くなった使用人が彼女を助け、事なきを得たのです。
「ん?」と温順の横に座っていた門弟・郭一念は首を傾げた。
「その使用人は娘を助けたのに、何故拐かそうとした犯人にされたのですか?」
一念に尋ねられ、林氏は気不味そうに俯いた。
「周家に対し、そう密告した者がいたようです」
「なんて酷い事をする奴がいるんだ!」
「これ!」
一念は憤慨して言葉を漏らすが、老師に窘められた。目の前に座る林氏は辛そうだ。老師が一念を睨みながらも林氏尋ねた。
「林さん、貴方はその使用人は悪事を働く者ではないと仰いましたが、何故その時にその使用人を庇わなかったのですか?」
「勿論、庇っていたでしょう。ただ、私はその時所要で家を空けておりました。私が家に戻った時には、その使用人は既に帰らぬ人となっていたのです」
林氏は膝の上で掌を固く握り締めて、絞り出す様な声で話す。その様子は酷く痛々しかった。
「──話は大体分かりました。当家から後日、この門弟達を送りましょう」
一通り聞き終えると老師は林氏を真っ直ぐに見た。
「有難う御座います!!」
老師の言葉に林氏ははっとして深々と頭を下げる。
「現段階で物音が聞こえる以外は被害出ていない様ですが、念の為人払いして頂く必要があります」
「分かりました。通いの者は兎も角、1週間程のお時間を頂ければ、住込みの者を皆外に移しましょう。皆、大事な使用人達ですから」
林氏はそう言って郭家を辞して行ったのである。
そして、一週間後。
郭家からはこの依頼を受ける為、年若い門弟の郭温順と郭一念が林家に向かった。




