悪友
「──それで断われず引き受けて来たのか? お前らしくもない」
げらげらと遠慮なく笑う友人に皓然は決まりの悪い顔をする。
梁家を辞した後、皓然は友人・柳白楽の元を訪れていた。
彼は元は張家の門弟、それもかなりの有望株であったが、数年前に張家を離れ根無し草となっていた。そして、今は何故か聖人君子と名高い郭家の若君・郭清海の元に転がり込んでいる。
「仕方無いだろう! 叔母上もこの件に絡んでいるのだ!」
「それで、お前はその子に語る為の面白い話でも聞きに来たのか?」
「いや」と皓然はそっぽを向いて答えた。
「話し手を代わって欲しい」
「嫌だね」
彼の返事は素っ気ないものだった。皓然が片眉を上げて「何故だ」と問うが、彼は当然だろうと鼻を鳴らした。
「お前が今言っただろう。この件にはお前の叔母上が絡んでいると。バレたら俺が胡蘭様に小言を言われる」
──お前は何だかんだ言いながら、のらりくらりと躱すだろう!
そんな事を思いつつ皓然が恨みがましい視線を向けると白楽は少々呆れた顔をしつつも同情する素振りを見せた。
「まぁ、確かに明鈴嬢には興味がある。篤実と親しい間柄の俺達ですら彼女の存在を知らなかったんだからな。八名家の集まりにはいなかったという事だろう? 女の子だったら俺が覚えているさ」
「ああ、それは俺も不思議だった」
何の自慢にもならないことを胸を張って言う白楽に皓然は呆れつつも同意した。
今は廃れているものの梁家は元は張家、郭家と並ぶ紗華国の八名家の一つである。明鈴はその当主・篤実の従妹に当たるのだ。位も決して低くはなく八名家の集まりに参加していてもおかしくなかったからだ。
「単純にそれが難しかったからではないか?」
珍しく清海が口を挟んだ。驚いて皓然と白楽が彼を見た。彼は物静かで口数も少なく、基本的に彼らの会話には口を挟むことをしないからだ。
「何故だ?」
白楽が清海に尋ねると、彼は不思議そうに答えた。
「彼女、目を患っていただろう?」
白楽が皓然を見たが、皓然は目を瞬かせながらも首を左右に振った。すると、「そうか、目はもう良くなったのか」と清海は一人で安堵している。
「いや、というかお前は明鈴嬢と会ったことがあるのか?」
白楽が尋ねると、「ああ」と彼は頷いた。
「幼少期、父に連れられ兄上と共に梁家を訪れた時に会った。その当時、彼女は目を包帯を巻いていたし、梁家の前当主も随分と気にかけていた」
「前当主が?」
皓然と白楽が同時に目を瞠る。前当主とは、今は亡き篤実の兄の事であるのだが、彼は公明正大な人物であり、誰かに肩入れする様な人物でなかったからだ。
──明鈴嬢はああ見えて余程重い病だったのか?
叔母である胡蘭も彼女が病がちだと言っていた事を今更ながら思い出し、更に断りづらくなる皓然だった。




