鼬 其の三
皓然は弓兵を数名集めると鼬の妖魔のから十分に距離を取らせ、半円の陣を組ませた。
徐々に弱っているものの未だ激しく暴れまわる妖魔相手に近接戦は深手を負う危険があった。その為、遠方からの弓での攻撃である。
──討伐した後、詳しく調べねばならないな。その為には出来るだけ損傷が少ない方が良いだろう。
「出来る限り急所を狙え! 少ない手数で仕留めろ! 放て!!」
皓然の号令と共に一斉に鼬目掛けて矢が飛んでいく。飛んでいった数本は暴れる鼬に寄って叩き落とされた。しかし、数本は見事に命中。
鼬はその場に大きな音を立てて倒れ込んだ。
衛兵に皮膚が抉れる程の大怪我をさせた妖魔は驚くほど呆気なく討伐されたのだ。
しかし、皓然にとって問題だったのは、その後、事後処理の方だった。
討伐した鼬の体を隅から隅まで調べ尽くしても何も出てこなかったのだ。
他の妖魔に襲われた痕跡──例えば、噛まれた、刺された様な跡──は一切なく、衛兵達が放った矢の跡だけであったのだ。では、何か毒物──幻覚作用のあるもの──を食べた形跡はいかと調べたが、そちらも出てこなかった。
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「──そして原因が分からないまま事後処理に追われ、気が付けば5日経っていた、というは訳なのだ」
「まあ、大変でしたのね」
話し終わった皓然に明鈴が感嘆の声を漏らした。どうやら満足してもらえたらしく、皓然は内心でほっとするもその横で篤実が呆れた声を出した。
「何かつまらないな」
「つまらない、とはなんだ」
皓然が睨むと彼は顔の前で扇子をパタパタと振った。
「こう、もっと血が滾る様な激しい戦闘はなかったのかい? 心躍るような話を期待していたんだよ!」
「俺に講談師の真似事をしろと言うのか? 実際の妖魔討伐なんてそんなこんなものだろう。いや、そもそもお前の為に話したんじゃない!」
「確かにそうだね」
皓然がそう言って睨むと篤実は意外にもあっさりと引いた。皓然が怪訝に思っていると、篤実は明鈴の方を向き、尋ねた。
「阿明よ。彼の話は気に入ったかい?」
篤実に尋ねられ明鈴は「ええ」と微笑んだ。その答えに篤実はにんまり笑い、皓然を見た。
「だそうだ。じゃあ、これからも宜しく!」
「お願い致しますわ」
「な!?」
良く似た顔で微笑む二人に皓然は絶句した。




