都の異変
それから数日の後に俊宇と占い師の男・丹は何事もなく都へと到着した。
実のところ俊宇は不審な占術師との同行は何か起きるのではと内心で戦々恐々としていたのだ。それが杞憂に終わった事に安堵しながら、都に一歩足を踏み入れた。
すると何処からともなく、肉の焼けるような焦げ臭いが漂って来た。
「こんな場所まで匂ってきやがる……」
その匂いに丹は顔を顰めた。
「何の匂いだ?」
「人を焼くニオイですよ」
「人!? 何故!?」
丹の言葉に俊宇はギョッとして彼を振り返った。
「何でも宮中で妙な流行り病が流行ってるそうで」
「流行り病!? では、都で起きてる異変とはその流行り病のことなのか?」
「ちょっと声が大きいですって!! ……どうもそれだけではないようですよお? 数年前、いや十数年前からだな。汚職が横行して朝廷がまともに機能してないとも言われてる」
──初耳だ……。
俊宇は衝撃のあまり呆然としていたが、はたとあることに気が付いた。半眼で丹を見た。
「何故今頃それを今言うんだ? 道中そんな話は一言もしなかったよな?」
「いやぁ~、到着すれば分かる事だしぃ〜?」
目を泳がせる丹に俊宇は確信犯だと理解する。この男は俊宇が都の異変を知らない事を良い事に黙っていたのだ。大方その身一つで都に行くのが嫌だったのだろう。
「いやぁ~、それに病が流行ってるのは宮中だけみたいだしな」
新たな情報が男の口から漏れる。
「宮中だけ?」
俊宇は思わず眉を顰めた。
「宮中は医官も常駐している筈だろう?」
「ええ、勿論。都から離れた貧しい田舎でもない、優秀な医官がいる宮中でのみ流行り病ってのは些か奇妙でしょう?」
丹は声を潜めて言う。
「都の人々はこう噂してるんですよお。恐ろしい妖魔が宮中の人間に呪をかけているって」
その一言に俊宇は天天と名乗った霊狐が凶悪な妖魔を探していた事を思い出した。
──あの霊狐の言っていた話は事実なのかもしれない。
「ならば八名家は何をしている? 妖魔の討伐は名家は領分だろう?」
「八名家? 黄家が取り潰されて今は七名家になって久しいぞ? まぁ、そんな事はいいか。今名家は様子見をしてますよ。皇帝のいる朝廷で下手に手が出せないんです。ただ、血気盛んな奴らは妖魔を討伐すべきだって声を上げですがね」
そこで漸く都内に道士の姿が多くあることに俊宇は気が付いたのだ。




