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紗華国妖魔奇譚  作者: 空色
第二部 皇子と仙女 第一章
209/217

和尚の不運 其の四

 岩徳和尚は元来真面目な部類の人間である。

 当然出家したばかりの子供は特に気にかけており、年嵩の修行僧から様子は良く聞いていた。

 ただ、岩徳和尚は厳めしい面構えをしており、声量も大きく幼い子供には恐ろしく感じる要素は非常に多かった。岩徳和尚自身もそれは理解していた。

 だから、岩徳和尚を怖がっているという話を聞いても、「ああ、またか」という感覚で、他の年嵩の修行僧に小坊主達を任せ彼等が自身に慣れるのを静観していたのだ。


 ──まさか、そんなところを妖魔に付け込まれるとは!


 岩徳和尚は腹を立てられない代わりに情けなさで一杯になった。おまけにあの妖魔は岩徳和尚を嘲笑うかのように解決の糸口を示している。枯木に言われた通り、とっととその小坊主と和解すれば良いのだ。ただ其処からが岩徳和尚には難しかった。


「──成程、下手に触れ回ってその小坊主が居辛くなってしまう。そうすれば、解決どころではないと。悶々とするうちに一月経っていたのですね。その妖魔も中々の策士です!」

「お前は私の味方なのか?」


 妖魔を称賛する枯木に岩徳和尚は胡乱げな目を向けた。


「大体、そういう事ならば最初から私を呼べば良かったのではないですか?」

「ゔっ」

「可哀想に。修行僧の子達は貴方を物凄く心配していたのですよ。私の所に助けを求めに来るくらいに!」

「ゔゔっ」


 痛いところを突かれ、岩徳和尚はがっくりと肩を落とした。


「で、お前なら解決出来るのか?」

「ええ!」


 胸を張ってそう言い切った枯木は岩徳和尚を治療する為と言い、ここ一ヶ月の岩徳和尚の様子を修行僧一人一人別部屋に呼び出して聞きはじめた。


「──岩徳和尚は治るのでしょうか?」


 聞き取りも終盤になり、呼び出した一際小柄な小坊主──名は半夏(ハンゲ)というらしい──が尋ねた。彼は酷く顔色が悪かった。


「岩徳和尚が心配かい?」


 半夏は小さく頷いた。


「実は私は意外とこのままでも良いかもしれないと思っているのです」

「えっ!?」


 枯木の言葉に半夏は目を見開いた。


「だって、あの人はただでさえ顔が怖いのに声も大きくてすぐ怒るだろう? 少しぐらい穏やかになったって罰は当たらないと思うのですよ」


「それは……」と半夏は口籠ったが、直ぐに枯木を真っ直ぐに見た。


「でも、それは岩徳和尚ではありません。私は和尚様が怖い、です。でも、元に戻って欲しいのです」


 半夏は両の手を握り締めてキッパリと言い切った。


「それに、もしかしたら、私のせいかもしれないから、です」

「どうしてそう思うのですか?」

「それは、その、実は……、和尚様がああなる前に奇妙な夢を見たのです」

「夢?」


 その夢の中で半夏は小さな祠の前にいたという。それは彼の村にあった祠によく似ており、半夏は懐かしくなったそうだ。それと同時に里心が付き、ポロポロと泣き出してしまったそうだ。


「とても家族に会いたくなって、悲しくなって泣いていたら誰かに話しかけられたのです」


 その声はとても優しく、半夏が泣いている理由を問うたらしい。


「私はその時、つい『和尚様が怖い』と言ってしまったのです」

「その声の主は何と?」 


 枯木は出来るだけ優しく半夏に尋ねた。


 ──全くこんな小さな子を泣かせるなんて! 私が少しばかり懲らしめてあげよう!


 声の主はそう言い、半夏は夢から覚めた。彼は夢の中でその人はきっと自分を励ますためにそう言ってくれたのだと思っていた。

 だが、岩徳和尚の様子がおかしくなり、もしや自分のせいではないか、夢の中のあの人が本当に岩徳和尚を懲らしめにやって来たのではないかと思えて、夜も眠れない日々を過ごしていたらしい。


「私は和尚様が怖いです。でも、懲らしめて欲しいなんて思ってないです。だから、枯木様どうか岩徳和尚様をどうか治して下さい!」


 半夏は泣きながら枯木に深々と頭を下げた。 




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