村の怪異 其の参
「道士様、あれが我が家です」
男に案内されたのは小さな茅葺きの家だった。その入り口には野菜を抱えた女が一人立っていた。男の妻だろう。女の方は俊宇を見て一瞬訝しんだが、直ぐに合点がいったのだろう。にこやかに微笑んだ。
「貴方が噂の道士様ですか?」
「ええ、俊宇と申します」
「驚いた。私、道士様はもっと年配の方だと思っていたわ! 皆、生首のせいで怖がってるんです。早く解決してくださいね!」
彼女は快活にそう言うが、男の方は俊宇の横で顔を引き攣らせていた。その様子に俊宇は内心首を傾げた。
「あっ、でもどうして夫と? 何かあったの!?」
心配する男の妻に俊宇は彼女を安心させるように微笑んだ。
「いえ、偶々生首が出たという畦道で会いました。皆様にお話を伺いたいお思い案内を頼んだのだ。折角ですから、奥さまにもお話が聞ければと思って連れて来ていただきました」
「あら、そうなの?」
「ああ……」
妻は男を一瞥すると、男は俯いて小さく頷いた。
「そう。でも、私はその生首を見ていないし、心当たりもないの。ごめんなさい」
女は申し訳なさそうに頭を下げる。彼女が嘘をついている様には見えなかった。
「そうですか、ありがとうございました。では、他の家にも案内お願いします」
そう言って俊宇は男を連れて家を後にした。
「もし、その首が奥さまのものだったとしてもその間の記憶は奥さまにはないのかもしれません。嘘をついているようにもが見えませんでした」
「ええ。村の奴らが生首の話をしても妻は顔色一つ変えません。寧ろ一緒になって心配していました」
男は途方に暮れている。
「仕方ありません。夜を待って様子を見てみましょう」
「お願いします」
男は小さく頭を下げた。
その後、夜になるまで俊宇は他の村人達に話を聞いて回った。
✧✧✧
──夜中、月が高い位置に昇った頃。
男の家の窓から、女の生首がふわりと躍り出た。生首はふわふわと村を飛び回っている。他の村人には夜の間家から出ない様に伝えてある。
──やはり、彼女が……。
「──道士様!」
家から出てきた男が俊宇に呼びかける。
「奥方が空飛ぶ生首の正体だったようですね」
「や、やはり、妻は悪霊に取り憑かれているのでしょうか?」
「それは…」
首を左右に振った俊宇に男は絶望的な表情をする。
「妻は妖魔、なの、ですか?」
男は震える声で尋ねた。
「彼女は飛頭蛮という妖魔です」
「ひとうばん?」
「飛頭蛮は昼間は普通の人間と変わりませんが、夜になると頭部がだけで空を飛ぶ妖魔の事です。ただ、気になるのは奥方にその自覚がないという事です。もしかすると本人も自身が飛頭蛮だと知らないのかもしれません」
「知らない? そんな事があるのですか?」
目を見張る男に俊宇頷き言った。
「理由は分かりません。朝、奥方が目覚めたら話を聞きましょう」




