村の怪異 其の二
俊宇は一先ず夜中に生首が飛んでいたという場所を確認してみることにした。
生首が最初に目撃された畦道を歩いていると祠で熱心に何かを祈っている男が目に入った。俊宇が近づいても彼は全く気が付いていない。
「もし、何をそんなに熱心に祈っているのですか?」
「うわぁ!!?」
俊宇が男に声をかけると男は驚いて逃げ出そうとしたが、すぐに足をもつれさせて転倒してしまった。
「大丈夫ですか?」
俊宇が慌てて駆け寄ると男は逃げる事を止め、その場に座り込んだ。
「驚かせて申し訳ありません」
「いえ、俺の方こそ逃げ出したりしてすみませんでした」
頭を下げる男の顔色は酷く悪い。
「熱心に祈っていたようですが、もしや例の生首の件ですか?」
「ええ、まぁ」
俊宇が尋ねると男は素直な気性なのだろう分かりやすく目を泳がせた。
──随分と歯切れが悪いな。
男の様子を不審に思った俊宇はさり気なく尋ねた。
「お聞き及びかもしれませんが、私は旅の道士です。空を飛ぶ生首の件を村長に依頼されました。もし、何か知っていることがあれば教えていただけませんか? 何かお力添え出来るかもしれません」
俊宇は出来るだけ男に優しく声をかける。男は逡巡する様子を見せたが、「──きっと、これも神獣様のお導きかもしれねぇ」と言って男は意を決して口を開いた。
「夜中に村のもんが見た生首は、俺の妻のもんかもしれないんです」
「どういう事です?」
俊宇は驚いて目を丸くする。
「俺の妻は隣村から一月前に嫁いで来たんだが──」
そう言って男は話し始めた。
男の妻が嫁いできて、すぐの頃。
明け方、男は目を覚ますと妙な違和感を覚えた。室内は薄暗く何がおかしいのかすぐには分からなかったという。
そこで男は隣で寝ている妻に声をかけようとした。しかし、女の頭がない。男は一瞬驚いたが、女が布団に潜っていると思い布団をめくり──。
「……………!!?」
男は驚愕なあまり声も出来なかった。
妻の首から上が無かったのだ男が驚いて腰を抜かしていると家の窓から女の頭がふわりと入り込んで来て元々頭のあった位置にすっぽりと収まったのだ。
男はそのまま妻に起こされるまで気を失っていたのだ。
──あれは夢だ。夢に決まってら!
そう思い、男は妻にも誰にもその事を話さなかった。しかし、村で生首が目撃される様になると男は誰かがあれば男の妻の首だと言い出す者がいるのではないかと恐ろしくなったのだという。
✦✦✦
「──道士様! 妻はきっと悪霊にでも取り憑かれているに違いありません! どうか助けてください!」
男は俊宇に縋り付く勢いで頼み込んだ。俊宇は静かに頷く。
「分かりました。では、私を奥さまの所に連れて行ってください」




