村の怪異 其の一
神獣様と別れてから、俊宇は一人道なりに進んでいた。暫く歩いていると前方に村人が集まっている。
──何事だろうか?
不思議に思った俊宇は一団に近づき、村長と思わしき人物に声をかけた。
村人達はいきなり現れた俊宇を訝しんだものの、彼が旅の道士だと聞くと事情を話してくれた。
「──実はここ最近の村で奇妙な出来事があったのです……」
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──それは一月前の夜の出来事である。
──ぎゃあああ!!?
深夜、絶叫が村の中に木霊した。
寝静まっていた村人達は何事かと外に出てみると一人の酔っ払が腰を抜かしている。
村人の一人が男に声をかけた。
「──お前さん、こんな夜分にどうした? 酔っ払って悪い夢でも見たか?」
男は震える声で答えた。
「く……、くくっ、く、首が!」
「首?」
「首がっ、人のっ首が空を飛んでたんだ!!」
男はそれだけ言うと気を失った。村人は彼を村長の家に運んでやった。そして、彼が目覚めると昨夜何があったのか尋ねた。男の言い分はこうだ──。
酒を飲んで良い気分になっていた男が畦道を歩いていると遠くに白い何かが浮かんでいるのが見えた。
「──おっ! 今夜は月夜か!」
男は上機嫌で白い何かが見える方に歩を進める。男が歩くと月もゆらゆらと揺れている様に見えた。
──今日は一段と酔っ払っちまったなぁ。
男は酔いを覚まそうとそこで足を止めた。しかし、男が月だと思った白い何かはまだ揺れている。その上、どんどんと近付いて来ているではないか。
──何だありゃぁ?
男が不思議に思っているうちにもその白い何か近付いて来て、それがはっきりと認識出来た時男は悲鳴を上げた。
空を飛んでいたのは人の、女の首だったのだ。
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「──相手は酔っ払い。儂らも最初は信じていなかったのです」
しかし、夜中度々女の生首が目撃されるようになると村人達も無視できなくなった、
「何か被害はありますか?」
俊宇が尋ねると村長は首を左右に振った。
「生首に驚いて転倒というのはありますが、今のところ大きな被害はありません。ですが、大きな被害が出ないとも限りません。道士さまどうか儂らに力を貸してください」
村長に頭を下げられ、俊宇は了承した。




