同行者 其の一
「──俊宇よ、あちらに美味しそうな果実が実っているぞ。採ってくれ!」
「畏まりました!」
「──俊宇よ、彼処に川がある。水を飲もう!」
「はい!」
ふさふさの尻尾を振りながらとてとてと歩く黒い狐が一匹。俊宇はその後ろについて歩く。
強者の風格とでも言うべき、あの圧倒的な威圧感はすっかり鳴りを潜めているが、それでも尚俊宇を顎でこき使っている。
この黒い狐──山の主が同行を申出た時、一時はどうなることかと思ったが、その旅路は順調かつ快適だった。山を熟知したているであろう山の主が道案内をしてくれているのだから当然だ。
──腹が空けば果実を採って食べ、喉が渇けば水に有りつける。山の実りは豊富で水は美味しい。妖魔の跋扈する山だと聞いていたのに目の前の山の主以外に妖魔を見ていない。何とも不思議だ。
俊宇は目の前をちょこちょこと動く山の主をじっと観察した。
「──どうした?」
俊宇の視線に気が付いたのか、黒い狐がくるりと頭を向けた。
「い、いえ!? 山の主様こそ何か?」
不躾な視線を咎められるかと思い、俊宇は身を強張らせた。しかし、山の主はふむと考え込むと口を開いた。
「先程から気になっておったのだが、『山の主様』とは呼び難くはないか?」
「え?」
「そうだな、我の事は神獣様と呼ぶが良い」
「は?」
「どうした? 里の者は我を神獣様と呼んでいるぞ?」
「さようで、ございますか……」
ふんっと胸を張る狐に俊宇は何とも言えない気持ちになった。
──これが狐に化かされるというやつなのか……?
ふさふさの尻尾、黒い艷やかな毛並、俊宇が採ってきた果実をむしゃむしゃと頬張る度に見える牙は鋭いが、金色の目はくりくりとしていて愛らしい。
──喋る以外はただの狐そのものに見える。
幾ら人語を操る妖魔が強力な妖魔であると知識があっいても、あの恐ろしい威圧感を体験していなければ、この狐が大妖などときっと信じなかっただろう。
──この狐の妖魔は一体どうやって山の中を跋扈していた妖魔達を退ける程の力を手に入れたのだろう?
まだまだ若く経験に乏しい俊宇には到底理解出来なかった。
「──見ろ、俊宇よ! もう時期麓の村に着くぞ」
山の主様改め神獣様の一声に俊宇は木々の隙間から麓の村を一望した。
旅立ってから3日目、俊宇は山を越えて初めて人里に辿り着いたのだ。




