手記
翌日、羅雨は明鈴に言われた通り書庫の中を探してみた。
──ですが、そんなに都合良く13 代皇帝の手記が見るかるはず有りませんよね?
そう思っていた羅雨はだったが、数刻もしないうちに羅雨の手には13代皇帝の手記が握られていた。
──おかしい。
羅雨は直感的にそう思った。
書庫の中の書物を全てではないが、羅雨は把握していたのだ。紗華国13代皇帝の手記などあれば、羅雨は真っ先に読んでいただろう。
そんな羅雨でも今まで見つけられなかった書物が今手元にある。
そして、何よりおかしいのは羅雨以外の人の気配がない事である。先ほどまでは確かに同僚達の声が聞こえていたのにである。
──これはまるであの山奥の宿であった出来事と同じ!!
羅雨は得体の知れない恐怖を感じ、そして同時に自らが体験している奇怪な出来事に激しく歓喜した。
──あの宿の書庫と同じであれば……。
羅雨に迷いは無かった。羅雨は手元にある皇帝の手記の頁をめくり文字を読もうとした。
その瞬間に視界がぐにゃりと歪み、書の中に吸い込まれる様な感覚に襲われた。
薄れゆく意識中で誰が羅雨の身体を支える感触があった。
微かに花の香が羅雨の鼻孔をくすぐる。
その香に誰が自分を支えてくれているのか羅雨には直ぐに理解出来た。そのまま羅雨は安心して意識を手放した。
「──全く困ったものね……」
意識を失った羅雨の身体を支えた人物──神獣様事、梁明鈴の姿があった。明鈴は羅雨を丁寧に書棚にもたれ掛からせると近くに落ちていた書物を拾い上げ、最初の頁をめくった。
✧✧✧
──あの頃の私は無鉄砲で傲慢で、根拠の無い自信と正義感に満ち満ちていた。
若気の至り、というべきなのだろう。
外に対する憧れから、閉ざされた狭い世界ではなく、もっと広い世界を見てみたいと漠然とした夢を見ていたのだ。
先に山を下りた兄姉弟子達はとても優秀な方々と聞いていた。だから、きっと外の世で活躍しているだろうと当然の事のように思っており、私の師であり養い親であるあの方の忠告に耳を貸さなかった。
もしも、あの頃の私にその分別があったなら、きっと私は山を降りなかっただろう。
私は親鳥に守られる雛の様に温々と日々を過ごしていれば良かったのだから……。




