仙女
──仙人とは、俗界を離れて山中に住み、不老不死かつ飛翔できるなどの神通力をもつといわれる人の事である。
そう羅雨は何かの書物を読んでそう記憶している。
紗華国の神話で後の13代皇帝となる赤子を助けたのは仙女だったと語り継がれているが、仙女が子供を拾ったその場所は妖魔の跋扈するという山中だ。同時期、天から舞い降りた黒き獣が妖魔の跋扈する山の主となり、人々を救ったという伝承がある。
羅雨はどちらの神話、伝承も知っていたが登場するのが獣と仙女であったため、関連付ける事を今までしてこなかった。
しかし今、羅雨は神獣の正体が元人間の女──目の前にいる梁明鈴であった事を知っている。
その事から神獣と仙女に関連性を見出したのだ。
羅雨は期待の籠もった目で明鈴を見たが、帰って来た返答は予想とは異なっていた。
「残念ながら、私は仙女ではないわ」
ゆっくりと首を左右に振った明鈴に羅雨は目を見開いた。
「それはどういう……仙女は別にいるということですか?」
「ええ」
明鈴は頷くと、羅雨は全身を震わせた。勿論、歓喜にである。
──つまりあの山には神話に語り継がれるような奇々怪々なるものが他にもいるという事なのですね!
「その仙女様に私はお会いする事は……」
羅雨がおずおずと尋ねると明鈴は目を細くする。
「彼女……、その仙女は俗世を嫌って仙人になったの。そんな人が俗世にまみれた人間に会うと思う?」
「ゔぅ……思いません……」
明鈴の言う俗世にまみれた人間はどう考えても羅雨の事を指している。あんまりな言いようだが、否定はしない。
がっくりと肩を落とす羅雨に明鈴は一つ溜息を吐いて自白した。
「13代皇帝を育てたのは仙女だけれど、皇帝を拾ったのは私よ」
「え?」
羅雨が驚きで顔を上げると、明鈴は少し決まりが悪い顔をしている。恐らく話すつもりはなかったのだろう。
「山の妖魔達を制圧したばかりの頃、使役する妖魔が山の中に人間の赤子がいると報告して来たのよ。その場所に行ってみると本当に赤子がいてね。けれど、あの当時、人間の子供を育てる余裕が私にはなかったし、赤子にとっても安全な場所ではなかったの。だから、私が、その赤子を仙女の元に預ける事にしたの」
「それで」
羅雨が続きを促そうとしたが、明鈴は首を左右に振った。
「知りたければ、書庫の中を探してみたらどう? 折角、書庫に勤めているのだから、皇帝の手記でも見つかるのではないかしら?」




