宮城の怪異 其の参
「──3つ目の話は『堀の怪異』です。
宮城には堀が張り巡らされていますが、その堀に纏わる怪異です。
朴様は武官なので当選ご存知かと思われますが、堀は敵が攻めてきた時に足止めする役割もありますから、その水深は思いの外深くなっています。
──月のない夜の出来事である。
見回りの最中、宦官は堀の方からポチャン、ポチャンと水の音がする事に気が付いた。
「む? 何か動物でも紛れ込んだか?」
動物が堀の中に入る事自体はままよくある事であったので、宦官は特に気にしなかったが、念の為、堀の中の確認に向かった。
──ポチャン、ポチャン
堀に近付くと先程よりもはっきりと音が聞こえる、宦官は「どれ、今日は何がいるのやら?」と堀の中を覗き込んだ。
「何だあれは?」
宦官は思わず独りごちた。
堀の中に何か丸い物がぷかぷかと浮かんでいるのだ。宦官は手元の明かりを堀に近づけた。暗闇の中、ぼんやりと浮かび上がった物に宦官ははっと息を呑んだ。
それは顔を半分だけ出した女の顔であったのだ!
その女は宦官と目が合うとニタリと目だけで嗤った。
「ひぃっ!!」
宦官は恐怖のあまりその場から脱兎の如く逃げ出した。
宦官は他の宦官に堀の中にいた女の事を伝えた。
「そなたの見間違えであろう?」
宦官の言う事が信じられず、そう言う者もいた。
「もしや、宮女が転落か、身投げしたのやも!」
そう考えた一部宦官達によって翌日、数人で堀の中をさらったが、結局何も見つからなかったという──」
羅雨が話終え、一息つくと朴が口を開いた。
「──女の頭……先程の話と同じ飛頭蛮か?」
気になったのはそこらしい。羅雨は苦笑しながら首を左右に振った。
「いえ、恐らく水落鬼或いは溺鬼──溺死した人の幽霊ではないかと、東方では濡女という女の頭に蛇の身体という妖魔もいるようですが」
「女の頭に蛇の身体……、妖魔にも色々いるのだな」
羅雨の返答に朴はちょっと渋い顔をしながら、そんな感想を述べた。
「ところで、どうです? 参考になりましたか?」
「参考にはなった。なったのだが……、羅雨殿こそどうなのだ?」
羅雨が尋ねると、朴も問う。その顔は先程よりも物凄く渋い。羅雨と朴の本題は奇々怪々なる出来事を創作する事なのである。
「一応、一つ考えてはみたのです。是非聞いていただけますか?」
「そうか!」
──考えているだけでは話も進みません!
そう考え羅雨は思い切って自分の考えた話を朴にしてみることにした。




