宮城の怪異 其の二
「──2つ目は『厠の怪異』です。この話は有名ですから、朴様もご存知かと思います。
ただ、この話は、夜番の衛兵が体験した話、宮女が体験した話など登場人物や話の細部が異なっています。
これは、人から人へ伝わる過程で話の内容が変化してしまった、或いは意図的に変えられた為かと思います。
これから朴様にお話するのは、その中でも私が最も原形に近い話と考えている話です。
──とある暑い夏の夜の事である。
火の番をしていた衛兵の男は同僚が厠に行ったまま何時まで経っても帰って来ない事に気が付いた。
「──彼奴、サボってるな!」
そう思った男は同僚を呼びに厠へと向かった。
しかし、男がそこで見たのは厠の入口で腰を抜かして動けなくなっている同僚の姿であった。男は慌てて駆け寄り、同僚に尋ねた。
「一体何があった!?」
同僚は厠の方を指差して言った。
「ばっ、化物が……!!」
「何だって!?」
男は信じられなかったが、同僚が嘘をついているようには見えず、周囲を探った。其処で厠の扉が1つ半開きになっている事に気が付いた。
男が慎重に厠の中に入ると、真夏の夜だというのに厠の中の空気はひんやりと冷たい。異様な雰囲気に男はぶるりと身を震わせた。
しかし、それ以外は何もない事を確認すると男はほっと息をついた。その時、
──ガタン!!
男の頭上で物音がした。
男がおそるおそる頭を上げると、其処には長い髪を振り乱した女の頭部が浮いていたのだ。女の頭は男を見るとニタリと笑った。
男の意識はそれ以降、ぷっつりと途切れてしまった」
羅雨は一度其処で言葉を切った。
「──その衛兵はどうなった?」
朴が恐る恐る尋ねる。
「その衛兵は厠で気を失っているところを発見されたと記載されていました」
「そ、そうか。それで、その頭だけの女は一体何だったのだ?」
羅雨の返答に朴はほっと息をつく。
「記載があった訳ではありませんが、恐らく飛頭蛮ではないかと私は考えています。同時期に似たような話が幾つがありました」
「ひとう……とは?」
「飛頭蛮は妖魔奇怪の一種です。通常は人間の姿と変りありませんが、夜になると頭部だけが胴体から離れて空中を飛び回るものとされています」
「首が空中を……」
その様子を思い浮かべたのか、朴は何とも言えない顔をした。その反応を見つつ、羅雨は口を開いた。
「──さてさて、では最後3つ目の怪異をお話しましょう」




