宮城の怪異 其の一
「それより、例の話はどうします?」
実は、羅雨と朴には許からの頼まれ事がもう一つあった。それは羅雨と朴も許の考えたような噂話をつくるという事だった。
本当に必要かと問われれば、正直必要ない気もするのだが許きっての頼みである。
「それな」
朴は遠い目をする。
「何か良い案はないのか?」
「宮城に昔からある奇怪なる話を元にして創作するくらいでしょうか? 私も奇々怪々な話を収集してきましたが、流石に自身で創作したことはないのです」
「普通はしないからな」
朴はそう言って肩を落とした。
「まぁ、洗濯屋に近づけない様にするのが目的なので水回りの怪異を参考に……」
一人呟く羅雨を一瞥して朴は物凄く嫌そうな顔で言った。
「羅雨殿、俺にも参考になりそうな宮城の怪異を教えて貰えるか?」
「え? ……ええ、勿論!」
羅雨は一瞬何を言われたのか分からなかったが、理解するとすぐに満面の笑みを浮かべた。
✧✧✧
「──宮城の歴史は古い。歴史があれば、当然、奇々怪々たる話も1つや2つではありません」
そう言って、羅雨は静かに語り始めた。
「──まず1つ目は『井戸の怪異』です。
──宮城の端に使われなくなった井戸があるのはご存知でしょうか?
宮城の中は広いですから、単純に老朽化や宮城内の整備など様々な理由で使用されなくなった場所というのは意外とあるのです。
重罪人を捕らえておく牢屋の側にあるその井戸のもその中の1つなのですが、これはその井戸に纏わる話です。
──その昔、ある裕福な家に強盗が押し入り、一家を惨殺されるという凄惨な事件が起きた。すぐにその家の下男だった男が捕られたのだ。
「──私はその様な罪は犯していません! 嵌められたのです!!」
捕らえられた下男は必死に無実を訴えた。しかし、身分の低いその男の言う事に耳を貸す者は誰もいなかった。
「すぐに自白するだろう」
下男の取り調べを行っていた官吏達は皆そう思っていた。
しかしながら、下男は何時まで経っても自白しない。官吏達は下男が早く自白する様に拷問を加えた。
それでも下男は拷問に耐え、無実を訴え続けた。拷問は日に日に酷くなり、下男の身体と心を蝕んだ。
ある日、とうとう耐えられなくなった下男はある行動に出た。何と下男は隙を見て自ら側にあった井戸に身を投げたのだ。
官吏達は急いで下男を引き上げたが、身も心も限界だった下男は既に息絶えていた。
その日以降、夜中になると井戸の中から
「私じゃない……私ではない……私を嵌めたのはお前か!!!」
……と下男の怨嗟の声が聞こえる様になったそうです」




