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紗華国妖魔奇譚  作者: 空色
第二部 皇子と仙女 第一章
186/221

口承

「──しかし、意外だったな」

「何がです?」


 善は急げと、羅雨(ラ・ウ)は早速帰宅して資料になりそうな書物を探す事にした。その横を歩くパクがぽつりと呟いた|言葉に羅雨は首を傾げた。

 何故朴がいるかと言うと、(シュ)に朴も羅雨を手伝う様に言われた為である。

 朴はチラリと羅雨を一瞥して言った。


「てっきり『あんな出来の悪い噂話を流すなんて、奇々怪々を冒涜としている!』 とでも言うのかと思った」


 羅雨は思わず目を見開いて朴を見た。朴はその視線から目を逸らす。


「ほら、あれだ。羅雨殿に限らず、その道を追求する者は大抵、そういった、紛い物と言うのが正しいか分からんが……嫌うだろう?」

「ああ」


 何とはなしに朴の言いたいことを理解した羅雨は苦笑する。


「そうですね。ただ、今回の事は奇々怪々なる話の成り立ちとして間違っていないですよ?」

「どういう意味だ?」


 朴は理解出来ず、訝しげな顔をする。羅雨は少し手考えてから口を開いた。


「奇々怪々の中には元より目的ありきで創られた物もありますから」

「目的? 例えば、どの様な?」


 朴は目を瞬かせる。


「そうですね……例えば、今回のように近付いて欲しくない場所に人々を近づけさせないようにする為とか」


 羅雨の頭の中を今まで訪れた村々が過る。


「私が嘗て訪れた村々でも似たような言伝えが有りましたよ。森の中には怪物がいるとか、夜中に井戸に近づくと攫われるとか」


 ──ある村の側には禁忌の森と呼ばれる場所があった。森の中に入ると生きて帰って来られないと言われていた。


「実際に過去の記録を見ると、人死がありましたしね」

「それは危険だな。……もしや、実際にその森に入ったのではないか?」


 眉を寄せた朴の問いに羅雨は苦笑して、首を左右に振った。


「正直、入って見たかったのは事実ですが、入りませんでした」


 嘘である。

 羅雨は森の入り口付近には入っている。しかし、その時に羅雨はある物を見つけたのである。

 しかし、そんな事は知らない朴の顔にはあからさまに「何故?」と書かれていた。


「実はその村の森付近に毒草を見つけたのです。私は1つの仮説を立てて、飢饉の記録と照らし合わせたところ、人死が発生したのは飢饉の時期と被ったのですよ」

「つまり?」


 朴が先を促す。


「元よりその森には毒草が自生していた。飢饉や飢餓で飢えた村人がその毒草を食べ亡くなった。その為、毒草があるその森に入らない様に禁足地にした。知識のない人にはどれが毒草かなんて分かりませんからね」

「成る程な。奇々怪々な話には理由があるということか」


 朴は納得して何度も頷くが、ふと首を傾げた。


「それでは、お前が求める様な本当の奇々怪々な話はないのではないか?」

「そんな事はありません! 追い求めれば本当の奇々怪々なる話に出会える筈です!」


 羅雨が力強く言い切ると「何を根拠に……」と朴は呆れていた。



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