旧洗濯場の怪異 其の二
「──それで終わりか?」
「ええ!」
ちゃっかり聞き入っていた朴が真っ先に口を開き、許が胸を張って答えた。
「どうだった? 実に奇妙な話だっただろう?」
そう言って彼は羅雨を見据えた。
「ええ、実に奇妙な話です」
「そうであろう!」
嬉しそうに頷く許に対し羅雨は眉を下げた。その反応に許は目敏く気が付いた。
「何かあるのかい?」
羅雨は逡巡したものの正直に答えることにした。許は羅雨が素直な意見を言ったからといって彼を罰したりはしないだろう。多分。
「私が奇妙に感じたのは使用されていない洗濯場が残されていたり、一介の下っ端宮女が高級妃の洗濯物を洗うということなのです」
「それは誰かの創作だからじゃないか?」
朴が横から口を挟み、雰囲気もぶち壊していく。許の眉尻が徐々に下がっていく。
「ええ、勿論それはあると思うのです」
羅雨が許にトドメを刺した。
「ですが、宮城の奇々怪々な話は数あれど私はその様な話一度も耳にした事はありません」
この回答に許と朴は目を瞬かせた。
「君の知らない話くらいあるだろう?」
「いいえ!」と今度は羅雨が胸を張って言い切った。
「この羅雨、奇々怪々有りと聞けば現地に赴いてその話を収集していた年月は伊達では有りません! 宮城のありとあらゆる奇怪なる話は全て収集済みです!」
堂々と言い切る羅雨に朴は呆れを含んだ目を向け、許は「おお!」と感心している。
「して、この話は最近出来た話だと?」
「ええ!」
羅雨は大きく頷いた。
「きっと記録調べれば分かるでしょうが、高級妃の着物を紛失して死んだ宮女はいないはずです。となると、この話はその旧洗濯場を使用されたくない誰かが流したのではないでしょうか?」
「では、誰が流したと?」
許に尋ねられ、羅雨は一枚の紙を取り出すとその紙に図を書き出した。
二人が羅雨の手元を見ると、簡単に宮城内の見取図が描かれていた。宮城を中心として南側に洗濯場、北西側に旧洗濯場が配置されている。
「許様、旧洗濯場の近くには何が有るのですか?」
「医療棟、流行病の患者などを一時的に隔離する場所だよ」
許は淀みなく答えた。それが既に答えだろう。
「この話は許様、貴方がお考えになったのですね?」
許は苦笑いを浮かべた。




