旧洗濯場の怪異 其の一
「──とある宮女の話なのだがな……」
許はニタリと怪し気な笑みを浮かべ、そう話し始めた。
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洗濯場に配属されたばかりのその新人宮女は、意地悪な先輩宮女に目をつけられ、嫌がらせを受けていた。
ある時、彼女は先輩宮女達から逃げ込んだ先で誰も使っている気配のない古い洗濯場を見つけた。
「こんな所にも洗濯場があったのね」
その洗濯場は古く今の洗濯場から距離があったものの、水はきちんと流れており、その宮女が利用するには十分な場所であった。寧ろ先輩達に洗濯物を隠されたり嫌がらせから逃れられるため、彼女にとっては大した問題ではなかったのだ。
彼女はその日からその洗濯場を利用して仕事をするようになった。
「此処なら人もいないし、嫌がらせも無いわ! 良いところを見つけたわ!」
人気が無いことを不思議に思いつつも、「きっと宮城から距離があるせいだわ」と彼女は気にすることなく、その洗濯場を利用し続けていた。
しかし、いつからだろう。その宮女しかいない筈なのに時折彼女をじっと見つめるような視線を感じる様になったのだ。
意を決して振り向いても其処には誰もいない。
──あの意地悪な先輩達に見つかったのかも!
最初、そう思いビクビクとしていた宮女だが、それが杞憂だと気付くのはそう時間は掛からなかった。人気の無い場所だ。彼女達なら彼女を監視する様なそんな真似はせず、彼女の前で嫌味の一つでも言ってくるだろうと思い至ったからだ。
いい加減気味悪く思い始めたものの、元の洗濯場に戻れば先輩宮女に意地悪をされる事が容易に想像出来たため、その場所を使う事がやめられなかった。
悩んだ宮女は同期の宮女仲間にその事を話してみた。すると、情報通の彼女は顔を青くした。
「その場所にもう行かない方がいいわ!」
「えっ、どうしてよ?」
「出るって有名なのよ!」
そう言って彼女は宮女にこんな話をした。
──昔、洗濯場に配属された一人の宮女がいた。彼女は意地悪な先輩宮女に洗濯物を隠されてしまったの。
その洗濯物は何と高貴なお妃様の洋服だった。
彼女窃盗の容疑をかけられ、折檻された後病になって亡くなってしまったわ。
それからというもの、夜な夜な洗濯物を探して彷徨う彼女の姿が──。
宮女は息を呑んだ。恐ろしかった訳では無い。
──まるで今の私だわ!
それが自身と重なったからだ。
宮女はその日以来、視線を感じるとその幽霊だと思い話しかける様になった。
しかし、そんな日々も唐突に終わりを告げた。
「──全くこんな所にいたなんてね!」
意地悪な先輩達にその宮女は見つかってしまったのだ。
驚いて宮女は逃げようとするが、囲まれた上に後ろは水路であった。逃げる事も出来ず縮こまっていると何時ものあの視線を感じた。
──ガサガサ!
草を踏み分ける音も聞こえてくる。
皆がそちらを一斉に振り返ると其処には白い衣を纏ったざんばら髪の女が立っている。
女の顔は青白く生気が無い。
「な、何よ」
これを見た先輩宮女たちはその尋常ではない様子に狼狽えた。
その間にも女は一歩一歩彼女達に迫ってくる。
「ぁあぁ……あ………」
女の乾いた唇からは呻き声が絶えず漏れる。
「ひっ!」
恐ろしくなったのだろう先輩宮女達は一目散に逃げ出した。
女は先輩宮女達がいなくなると、一歩一歩進み先程現れた茂みの中へと戻っていった。
宮女は呆然としたまま、その姿を凝視していた。




