口裏合わせ
「──さて、貴女の事をどう説明しましょうか?」
道中、羅雨休憩がてらに入った茶屋で目の前に座る女人にそう尋ねた。
彼女──神獣様事、梁明鈴──は膝上の猫を撫でながら言った。
「奉公先を探していた未亡人とでも説明すればよいのではありませんか? 確かに、ご家族もいきなり見知らぬ女を連れ帰ったら心配なさるでしょう」
しかし、羅雨は首を左右に振った。
「私の家族は良いのです。きっと、『この方が神獣様なのです! 』と真実を言っても、きっとすんなり受け入れてくれるでしょう」
羅雨の返しに明鈴は一瞬目を丸くしてから苦笑いを浮かべた。
「羅雨の家は商家でしょうに。いえ、商家でなくとも、何処の馬の骨かも分からない人間を連れ込んで何かあったらどうするのです?」
「同感ではあります。ただ、私の両親兄弟皆抜け目がないですからねえ。滅多な事ではどうにもならないと言うか……」
項垂れる羅雨に明鈴はふっと笑った。
「何か?」
「いえ、羅秀もかなり用心深くて抜け目のない人だったなぁと。それが子々孫々と受け継がれていると思うと何だか可笑しくって」
彼女は一頻り笑うとふと顔を上げた。
「あら? 家族ではないとすると、誰に対する説明なのです?」
「ああ、その他諸々の方々ですね。下手な嘘をついて痛くもない腹を探られるのは不愉快です。それに家族にも迷惑を掛けてしまう。ある程度の口裏合わせは必要かと」
それには明鈴は眉を潜めた。
「私を連れ帰った時点で痛くもない腹を探られるのではなくて? 姿を隠していた方が良いかしら?」
「えー、それだとつまらないでしょう? 折角、王都に行くのですから、両親や兄弟にも会わせたいです!」
迷惑をかけたくないと言いつつ、自分の希望を優先させる羅雨に明鈴は猫と目を合わせて苦笑いを浮かべるしかなかった。
それから羅雨の家に着くまでの道中、二人は出会った経緯を擦り合わせた。
明鈴は夫に先立たれ未亡人となった後、奉公先を探す為に王都を目指していた。その道中、偶々とある廟で雨宿りをしていたところ、奇々怪々を求めて旅をしていた羅雨と出会った。一度はそこで分かれたものの、王都への帰路で再び出会い、これも何かの縁と一緒に王都に向かった。
その際に「良い奉公先を知らないか」と尋ねられた羅雨が「では、一度店に来てみれば良い」と勧めた結果、羅雨の実家である宝来門にまで彼女がついてきた………という形に収まった。
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──まぁ、大方嘘はついてませんし!
羅雨は朴用に茶器を用意しながら、一人うんうんと頷いていた。




