序章
──千年以上前、大陸には紗華という国が存在した。長く繁栄した紗華国は幾度かの戦乱を経て分離と統合を繰り返した結果、今は3つの国に分離している。そのうちの一つが玄雲という国である。
この玄雲の王都には宝来門という大商家があり、その商家には大層可愛がられている末子がいた。
末子の名は羅雨。
親や兄姉揃って甘やかすものだから、周囲の者はあの末っ子は碌な大人にならないと噂していた。
実際、彼は幼少時から奇行も多かったと人々は口々に言う。
特に奇々怪々に対する興味は尋常ではなく、奇妙な話を聞けば四方八方へと自ら足を運んでその真偽を確かめていた。
周囲の者はその行動に呆れていたが、彼の両親兄姉は揃って彼を褒め称えていた。
──一体何故彼の家族は彼を褒めるのか?
周囲の者は首を傾げていたが、彼の集めてくる話はどれも面白く、彼が新たな話を仕入れたと聞けばその話聞きたさに多種多様な人々が店を訪れてるほどだ。噂では都一の講談師や隠居した名家の当主などもいたという話である。
さて、そんな彼も成人すると真っ当に役人を志した。熱心に勉学に励んだ甲斐あって、試験には無事合格し文官として働き始めた。その頃には周囲の人々は彼の奇行も収まるだろうと考えていた。
しかし、彼の奇々怪々は全くもって収まっていなかった。暇を貰うと四方八方へと更に足を伸ばし、新たな奇々怪々ねる話求めて訪ね歩いていた。
──何故彼はそこまでして奇々怪々を求めるのか?
最早それ自体がこの王都周辺では最も奇怪で不可思議な謎でないかと皆語っている。
そして、この度旅路から帰って来た彼が──今まで女っ気の無かった彼が──見知らぬ女人を連れ帰ってきたというのだがら、人々があれやこれやと騒ぎ立てたのも無理の無い話なのである。




