呪い
「守刀?」
羅雨は首を捻った。千年前の守刀であれば相当な値打ちのあるものだ。しかし、羅雨にはそれがどの様な品でどんなものか分からなかったのだ。
これには違う意味で衝撃を受けた。
──そんな値打ちのあるものがあったのなら直ぐに分かるはずだ!
羅雨とて商人の息子。目は肥えている方だと自負していた。
羅雨の反応をどう取ったのか、神獣こと──梁明鈴は口を開いた。
「──貴方の奇行は以前から知っていたわ」
「へ?」
つい間の抜けた声を出してしまった。
「羅家は羅秀の子孫という事ですか?」
「うーん……貴方が羅秀の子孫であるのは確実だわ。ただ千年もの時が経っているから、羅家が羅秀の子孫かも言われれば怪しいわね」
「?」
「色々な家と婚姻を繰り返しているし、羅性では無いときもあったから」
「つまり、ずっと羅秀の子孫の事を見ておられたと?」
「たまに、ね? 勿論、羅秀の子孫以外も見ていたけど」
彼女はいたずらがバレた子供のような顔をする。たが、神仏と言われるものが自身を見ていたというのは有り難いと思う反面、恥ずかしくもあった。そして、もう一つ別の思いも浮かんだ。
──お辛くはありませんか?
そんな言葉が口から漏れそうになり、羅雨は口を継ぐんだ。人は生まれ成長して老いて死ぬ。嘗て人だった者がそれを見続けるのは、どんな心持ちかなど問うのもの憚られたのだ。
「私は勘違いをしていた。奇行は子供の好奇心からの行動で大人になれば収まるだろうとね。けれど、羅雨、貴方の場合は違った。貴方は妖魔に魅入られていた。私の気が付かないところで」
羅雨は目を瞬いた。色々と彼女の物言いは気にかかる点が多い。それはまるで他の誰でもない羅雨をずっと見ていたような物言いだからだ。
「貴方は私を見ていた。それは何故ですか?」
羅雨は真っ直ぐに彼女を見てもう一度尋ねた。
「ある人が私に……正確には私と羅秀に呪をかけたの」
「呪?」
「ええ、不完全で欠陥だらけの呪い。本来ならば呪いとして機能するはずもない物だけど、誰よりも純粋で切実な思いがそれを可能にした」
彼女はそっと息を吐いた。
「羅雨。貴方の、羅秀の魂がこの世に産まれる落ちる度に私は貴方の存在を感じていた」
羅雨の胸にストンと落ちるものがあった。
羅雨自身もずっと感じていた奇妙な感覚の正体がこれだと確信したのだ。
「それと私が妖魔に魅入られたのは関係があるのですか?」