形代
「──それで梁明鈴は呪いの匣を手に入れたということですね!」
「ああ、そうだ!」
羅雨が瞳を輝かせて興奮気味に言うと目の前の少女も自慢気に頷いた。
「しかし、これが黄家の反乱よりも前の話であるなら、もしや黄家の反乱は仕組まれたものだったのですか?」
時が時なら恐ろしい質問であるが、これは1000年以上前の話だ。羅雨は躊躇なく目の前の少女に疑問をぶつけた。
「さぁ、それは知らんの。まあ、黄家の当主の性格を考えれば、元々好機があれば何かしら仕掛けていたであろうな。黄家が反旗を翻した時、誰も疑問に思わなんだ事が良い証拠じゃろ?」
少女はのらりくらりと交わしてくる。
──さて、匣を手に入れたから運命がそう動いたのか、それよりも前から運命の歯車は廻っていたのか……。これはどう取るべきなのか?
羅雨は思考わ巡らしたが答えは出ない。代わりに別の疑問が湧いた。
「梁明鈴が匣を手に入れた時、怨霊を祓ってはいなかったのでしょう? 匣もそのままだった。声真似の言うように別の何かに移し替える事しなかったのですか?」
「いいや、移し替えた。匣はただの文字通りの匣になった」
「では、何に?」
「胎児の遺骸だ」
羅雨は目を見開いた。梁明鈴は呪詛師の行動を嫌悪していたというのに。その当人が同様の行動をするとは思えなかったのだ。
「胎児の遺骸に怨霊を封じ込めたのさ。人の所業とは思えぬか?」
「理由は、分かります。人の魂を宿すなら人形が一番有効ですから」
何故、形代や依代が人の形をしているか。以前、とある僧侶が教えてくれた。それは最も霊を宿しやすい形だからである。だから、声真似の霊魂も人形に移す事が出来た。
ただ、それと許容出来るかは別の話である。
「まあ、あれ程の怨霊を移せるものなどあの場には無かったからな」
「え?」
「永年、怨霊の気に晒され続けて来たものだ。あれ自体が呪具に変化していてもおかしくない。でなければ、とっくの昔に朽ちていただろうよ」
少女は陽気に言った。
「──そう言えば、この話は貴女の正体の話ですよね?」
「おや、なんだ。忘れていなかったのか?」
「忘れていたら、話さないつもりだったのですか?」
少女は態とらしく残念そうに言った。対する羅雨は眉間に皺を寄せ不機嫌そうな表情を作る。
「まぁ、聞け。次の話でこの話は終わりだ。さすれば、私の正体も分かるさ」
そう言って、彼女は不敵に笑った。




