吸魔の剣
「明鈴様のお側でその剣を見ていて気が付いた事があります。その剣は魔を取り込んで力にする事が出来る。それはその剣が吸魔の剣だからではないですか?」
──吸魔の剣なの?
──如何にもそうだが?
明鈴が声真似に言われた事を確かめるために思念で尋ねると、彼は今更なんだとばかりに返す。
言われてみれば、この剣は呪いの剣となる前から主の怨嗟を取り込んだりと普通の剣では有り得ない事をしている。明鈴はこの剣が強力な呪いの剣であるからだとばかり思い込んでいたが、成る程彼の言う事は一理あるようだ。剣の霊自身も認めているのだから事実なのだろう。
──という事は、この剣は私の邪眼を封じていたのではなく、私の眼に寄ってくる魔を吸収していたと……。
確かにこの剣は妖魔の魂を望んでいた。また、触れたものの生命を奪っていたのは、吸魔としての力が暴走していたせいか。
何故、今の今まで気が付かなかったのかと明鈴は頭を抱えたくなったが、今はそれどころではない。
「どうすれば良いの?」
「明鈴様の目は相手の魂を見る事が出来ますよね。だから、消えかけていた私を留める置きこの仮初の身体に移し替える事が出来た」
明鈴は声真似の言葉に頷く。
「でも、それは貴方と言葉をかわすことが出来たからよ」
声真似は温厚な霊魂だった。だから、交渉も容易だったのだ。
明鈴はちらりと手の中心にいる胎児の様な者を見た。無数の魂が入り交じり、ぐちゃぐちゃな塊と化したものと会話が出来るとは思えなかった。
「あの霊魂に近付けないのは凝縮した怨嗟のせいですよね。もし、剣に一部でも怨嗟を取り込むことが出来たら、明鈴様はあの塊の中の魂を取り出すことは出来るのではないでしょうか?」
明鈴は答えに窮した。そんな事をした事は一度もないし、出来るかも分からない。ただ出来る可能性があるのならばやるしか無かった。
明鈴は剣を握り直した。先程までと打って変わって剣に何かを吸い取られる様な感覚が全身を襲う。
塊から黒い靄の様なものが溢れ出し、剣に向かってくる。それを剣で受け止めながら、塊の中に残っている魂の残渣を探した。
──見えた。
目を凝らし、明鈴は塊の中に魂の残渣を見つけた。
──苦シイ。痛イヨ。
女に子供、老人の魂は皆は泣き、苦しんでいた。
──許サナイ。赦サナイ!
怨嗟の言葉を吐きながら、それでも互いを護ろうとしている。
明鈴は魂の中心にある胎児の魂に手を伸ばした。
気が付けば、明かり取りの窓から陽の光が差し込んでいる。無事朝を迎えられたのだ。
明鈴の目の前にはあの匣があった。中からはまだドクドクと鼓動が聞こえているが、明鈴に対して敵意は無いようだ。
明鈴はそっと匣を抱えると蔵の外に出た。
──これは黄家が反乱を起こす少し前の話。