胎児
──暗い室内あるのは燭台の灯火だけだ。
僅かな光に照らされた床に女が一人横たえられていた。女の目には既に光はなく、すでに息絶えできることは見て取れた。
黒い外套を羽織った何者か──恐らく呪詛師だろう──が女の遺体を前に薄気味悪い笑いを浮かべた。女は腹膨らんでおり、その中には赤子がいるのは明白だった。
外套を着た人間が手を振り上げた。手に握られた獲物が蝋燭の火を反射して光る。その得物は女の腹を裂いた。
呪詛師は引き裂いた女の腹らから胎児を取り出した。薄気味悪い笑い声を上げていた。
「──しっかりしろ!!」
ジュッと掌に焼ける様な痛みが走り、明鈴は我に返った。
「──何て事を! あれが……」
再び吐き気を催しそうになり、明鈴は手で口元を覆った。
──人の所業じゃない! あの匣を作った呪詛師は死んだ母親の腹から胎児を引きずり出して呪術の媒介として使ったんだわ!
凝縮している怨念が明鈴の目にははっきりと映っている。それは黒い靄などではなく、無数の霊魂が一塊になり、匣の中にぎゅうぎゅうに押し込められている。見ていて気持ちの良いものでは無かった。
──敵ヲ打払ウ、敵ハ排除セヨ。
無数の声が頭の中に強く響いた。彼等の怨嗟は敵──今は明鈴──に向いている。彼等の強い怨嗟は主──匣の持ち主──の敵──害する者──を排除するように出来ている。
──彼等の恨みの元とはそもそも何?
その答えは直ぐに出た。
──当然、彼等を殺した者達だ!!
彼等の一族は騙され、敵に攻め込まれ非業の最期を遂げたのだ。そうして生まれた怨嗟は今も昇華されること無く呪具として利用されている。
この怨嗟を昇華させるには、彼等の無念を晴らすしかないだろう。だが、まずは明鈴がこの術中から出る必要がある。そして、ここから出る方法は匣を破壊する事だ。
明鈴は剣を大きく振りかぶった。手が四方八方から伸びてくる。
「──お待ちください!!」
明鈴とも剣の霊とも違う声が響いた。
驚いて明鈴の動きが止まる。声の主は明鈴の肩にいた。声真似の霊魂は脆くなっているせいか、存在感が薄く気が付かないことも多かった。
「声真似ついて来ていたの?」
「はい、勝手をして申し訳ありません。明鈴様、私に案がございます!」
小さな人形を形代にしている彼は必死に明鈴の肩にくっついている。
「明鈴様はあの怨霊を此処から動かしたいのですよね。ならば、危険を犯して破壊せずとも、私のように他の形代に移せば良いのです!」
「それは可能なの?」
「ええ、明鈴様とその剣があれば!」
胸を張って言う彼に、そう言えば彼は生前は道士であったなと今更ながら思い出した。




