鼓動
──ドクン、ドクン
微かに聞こえてくる鼓動を頼りに明鈴は匣を探した。
「──匣を見つけて、その後はどうする?」
剣の霊の声が頭に響いた。
「当然、此処から出るのよ」
「出来るのか?」
剣の霊に問われ、明鈴はぐっと唇を噛んだ。出来るか、出来ないかではないのだ。此処から出ない限り明鈴は匣に取り込まれ、関氏の話にあった強盗のように無惨な姿で放り出されるだけだ。
生き残りたければ此処から出るしかない。
「これだけ圧縮された怨念をお前は払えるのか?」
「…………」
──貴方がしろって言ったんじゃない!
答えない明鈴に剣の霊は更に問う。しかも、今更な問だ。
「我はあの匣に囚われた、主の一族の皆を救いたかった。だが、あれはもう……」
剣の霊が何を言いたいのかは理解している。互いの魂を喰らい合った結果として残っているのは、凝縮された怨念だ。
怨念を昇華する方法はない事はない。
「力に向かう先を与え、霧散させてやれば良い」
霧散させた後はきっと何も残らないだろう。
「つまり、お前が力を何処へ向けるか決めるのか」
剣の霊の声は僅かに嘲笑いを含んでいた。明鈴にとっては全く面白くとも何ともない。
言うは簡単だが、これだけ圧縮した怨念を何処へ向けるかは慎重にならねばならない。この匣を作った術者やそれを命じた者が生きていればまだ簡単だが、その者達はもう居ない。
失敗して己に返ってくる可能性もあり非常に危険な行為だ。
今、この呪いは明鈴に向いている。だが、剣の青黒い炎を警戒しているのか無数の手は明鈴には近づけないでいる。
手を避けながら進むうちにある事に気がついた、一定の場所に近づけないようにしているのだ。
──あの手は何かを守っている。
明鈴は直感的にそう思い、強引に前に進んだ。
「「あった!!」」
明鈴と剣の霊の声が重なる。そこには関氏の言っていた古い札の貼られた異様な様相の匣が一つ鎮座していたのだ。
明鈴は慎重に匣に近づいた。匣の中からはドクンドクンと鼓動がはっきりと聞こえてくる。
明鈴は剣で封を切り、ゆっくりと匣の蓋をずらした。
酷い腐臭と邪悪な臭気が鼻をつき、吐き気が込み上げてくる。
「ゔっ……!」
明鈴は中のものを目にして、込み上げてくる嗚咽を抑える事が出来なかった。
そこには切り取られた手の中心に干からびた胎児の遺骸が一つ入っていた。
鼓動はそこから聞こえていたのだ。
まるで、母親の腹の中で子が育つ様に匣の中で怨霊がすくすくと成長していたのだ。




