蔵
商家の蔵はお宝の宝庫だと羅秀は思っている。これから売出す商品や秘蔵の品、一部の層にしか売れない商品それが蔵には詰まっているからだ。
それが大商人の関家の蔵なら言わずもがな。こんな機会でも無ければ、入る事すら出来なかっただろう。
正直、商人としての羅秀はその匣とやらよりもそれらの価値ある品々の方が気になっていた。
──いけない、いけない。
ついつい気がそれてしまいそうになるの自身を諌めつつ、羅秀は関に声をかけた。
「関さん例の匣は何処に?」
羅秀が尋ねると、彼は「此方です」と言って関は蔵の階段を上り、屋根裏へと羅秀を案内する。関に続き、羅秀が屋根裏へと足を踏み入れようとした時、全身に悪寒が走った。
──寒い。真冬の庭先にいるようだ。
季節は春、幾ら日の当たらない蔵の中でもこんなに寒いはずが無い。
これ以上足を踏み入れてはいけないと全身が警告を発している。堪らず羅秀は足を止めた。
「羅さん? どうされました?」
前を行く関は羅秀の様に異様な寒気は感じていないようで、足を止めた彼を不思議そうに見ている。
「関さん、私はこれ以上入れない様です。ですので、これから直ぐに戻り、梁様にご相談致します」
そう言えば関ははっとして匣の置いてあるという場所を一瞥してから、羅秀へと向き直った。
「お願い致します」
彼は深々と頭を下げた。
✧✧✧
「──当たりです」
明鈴の元を訪れると羅秀は懐から彼女から預かった宝玉を出して告げた。
「やっぱり」
明鈴は宝玉を受け取った彼女は特に驚いた様子もなく、机の上に置いた。恐らく羅秀が手土産を持って来た時から薄々勘付いていたのだろう。
「これをよく見て」
彼女の目の前に置かれた宝玉の中によく見れば青黒い炎が燃えており、その周囲は異様な程冷たい。
「これも何か呪具の一つですか?」
「これはこの呪いの剣の飾り紐よ」
気が付けば彼女の手には何時の間にか一本の剣が握られている。美しくも禍々しいその剣に羅秀は釘付けになった。
「羅秀!」
彼女に名を呼ばれ、羅秀ははっとする。すると剣は跡形も無く消えていた。
「不注意だった。ごめんなさい」
「い、いえ」
彼女が申し訳無さそうに俯く。暫く呆然としていたが、その意味が理解できた時意味が全身が粟立った。
──これが魔に魅入られるということなのか……!
一瞬目にしただけで、釘付けになってしまった。羅秀はこの時初めて本当の意味で強力な呪具の恐ろしさを知ったのだ。