噂話
茶葉を預かった羅秀は数日思考して策を捻り出した。何も特別な方法ではない、単純に別の商品と抱き合わせで売る方法である。ただ、予め奇妙な噂を流しておく事は忘れない。
それだけで売れなかった茶葉人々の興味をそそる品になり、売れ筋の商品になった。後はその茶を気に入った人がまた購入してくれれば、関家としては御の字なのである。
「──羅秀、最近奇妙なことは無かった?」
手土産にその茶葉と菓子を持って行った先──梁明鈴に尋ねられ、羅秀は一瞬心臓がどくんと脈打った。てっきり、噂の事を詰められると思ったのだ。
彼は表情を取り繕うと笑顔で向き直った。
「変わった事、ですか? そうですね──」
手土産のついでに関家の家宝の話をしようと思っていたのだと告げると彼女は少し考え込むような素振りをした。問われなかったので、敢えて噂話については触れなかった。
彼は彼女の目の前に座ると茶器を用意した。黄金の茶が注がれる。その様子を彼女は感情のない瞳で見つめる。
「当たりかもしれない」
誰にともなく呟いた彼女の瞳は茶に似た黄金に輝いていた。この瞳を見るのは羅秀の人生では二度目であった。
羅秀は何も見ていないという体で茶を啜った。
「で、実は大商人の関さんの家宝を見せてもらう事になったのです」
じっととした目を向けられたが、彼女は何も言わず茶を啜る。既に関家の家宝を見に行く日取りは決まっていた。
「まぁ、気を付けて。念の為、これを」
明鈴は蒼い宝玉のついた剣飾りを羅秀に手渡した。見たことのない大きな宝玉であったが、見た目以上にひんやりと冷たかった。
「──ところで……」
彼女は茶を飲みきるとにこやかに笑った。但し、目は笑っていない。
暫くチクチクと噂話について詰められた。
先程入り口で張家の当主と李白楽に出くわしたのでもしからしたらと思っていたが、どうやら的中したらしい。
張家当主は兎も角、耳の早い李白楽から噂話について聞いていたのだろう。噂話に登場する女人は明鈴を参考にしたことが早々にバレてしまった。
「まぁ、貴女だと分かる人もいないですって!」
羅秀はそう開き直って聞き流した。
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──その数日後
家宝とやらを見せてもらう為、関家の蔵に足を踏み入れていた。




