茶葉
「──なるほど、それで当家に……ですか。しかし、彼の家の方動いてくれるかについては返答しかねますよ」
「勿論、理解しています。それで構いません。そうですね……、もし宜しければ羅さんに譲って差し上げましょう。まぁ、お勧めはしませんがね」
少しばかり憂いを人に話してスッキリしたのか、先ほどより関の顔色は良くなっており、表情は明るい。冗談をいう余裕も出来たようだが、その冗談に羅秀はとんでもないと内心で肝を冷やした。
「遠慮致します! 私は商人として自力で大成したいのです」
そう返すと関はカラカラと笑った。矢張り冗談であったようだ。
「ふふ、矢張り思っていた通りの方だ」
そう言われ羅秀は一先ずほっと息をつく。実際、そんな面倒なものを譲られても困る。
一頻り笑った後、茶を啜る関の様子を伺いながら、羅秀は違和感を感じていた。
幾ら八名家と繋がりがあるからと言って関よりも格下の羅家に話す内容ではないからだ。そんな羅秀の心中を察したのか関は口を開いた。
「──実はもう一つお願いしたき事があるのですよ。今度は本当に羅さんにね」
「私に?」
──来た!
と羅秀は身構えた。
「あの匣がなくなれば、我が家から厄災を守るものは無くなります。少しの揺らぎが我が家にとって致命傷となるでしょう」
確かにその家宝の力が本物であれば関の言うような事は起こり得るだろう。
「そうなる前に一つ良い商売をと」
そう言って一つの箱を羅秀の目の前に置いた。それは一般的な品物を入れる箱のようで特に札などは貼っていない。
「心配なさらず、これは唯の茶葉です」
「茶葉?」
関はそう言って匣を開けると、確かに茶葉が入っている。
「これは私の倅が仕入れたものです。味も香りも悪くない。品質は保証致します」
羅秀は使用人を呼び茶器を用意させると、その茶葉で茶を入れた。確かに彼の言うように味、香りともに良く、特に黄金の茶の中に開く花は目にも鮮やかだ。
「これがどうしました?」
「売れぬのです」
「良いものの様に思いますが、売り方に問題が?」
「掴みは良いのですがね、顧客が付かないのですよ」
なるほどと羅秀は頷いた。確かに目を引くし、初見であれば、話の種に購入してみようとなるだろう。
だが、それだけだ。茶は嗜好品、裕福な家でなければ買わないだろう。
「羅さんは若いが商才は本物と聞きます。是非、倅にその手腕を見せてやって欲しいのですよ」
そう言われ羅秀は内心歯噛みした。
この男は羅秀を試している様に感じたのだ。この男は様何かしらの方法は持っていて敢えてそれをせず、羅秀に態々依頼している。だとすると、何かしらそうする事で彼にとって得があるのだ。
商人の感のようなものではあるが、これは羅秀にとっても特にある話であり、危険な賭けであった。
「暫し、預からせてくれますか?」
「ええ、勿論」
──切っ掛けはどうであれ、この関という男は根っからの商人だ。
そう羅秀は感じ、武者震いした。




