籠 其の三
炎の中捕らえられた青年は磔にされ、戦場跡地に何日も野ざらしにされていた。彼の一族の者と思しき亡骸も一緒だった。
「──許さぬ、許してなるものか……」
彼の乾いた唇からは怨嗟の言葉が紡がれる。彼の瞳には嘗ての少年時代の輝きはなく、薄暗い憎しみの炎を宿していた。
「……許さぬ。許してなるものか……」
彼は乾いた唇で怨嗟の言葉を吐き続けた。
その側で誰かの啜り泣く声が聞こえた。周囲を見渡したが人の姿はなく、それが剣からしている事に気がついた。
──ああ、いけない。主様よ、憎しみにのまれては!!
明鈴の中に剣の霊から発せられる嘆きの声が木霊する。剣の霊を見やれば、彼の顔は苦渋に満ちていた。
彼が意を決して胸に手をやると剣に嵌められたのだ蒼い宝玉は僅かに光を発し彼の死ぬ間際彼の怨嗟を呑み込んだ。その怨嗟が剣を黒く禍々しいものに塗り替える。
更に剣はその力をあの禍々しい竹籠にも向けた。しかし、彼の主以上に激しい憎しみと禍々しさを帯びたそれを剣は飲み込む事は出来なかった。
「──これは良い剣だ」
禍々しい力を放つ剣に近づく者があった。敵の将だろうか、ニヤついた厳つい男の顔が映し出され、全身に肌が粟立った。
剣の霊抵抗を見せた。しかし、所詮は剣の霊が宿る唯の剣はその身一つでは抗う事は出来ないと思われた。
「なっ、何だ」
男の顔が驚愕に変わる。彼の腕が何か禍々しいものが這い上がっていく。それは見た目こそは唯の炎の様であったが、触手の様に彼の生気を吸い尽くす。
数分も経たぬうちに敵将は全身木の様に枯れ果てたの木乃伊の様な姿になったのだ。
彼の周囲は一瞬にして、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
それから剣の霊は剣に触れる者は老若男女関係なくその生命を吸い尽くした。そこには既に剣の霊の意志は反映されていなかった。
ある道士によって何処とも知れぬ池の中に鎮められた。
それからどれ程の年月が経っただろうか。長い間、剣の中の怨嗟は消えること無く周囲に死を撒き散らしていた。
剣の鎮められた池に一人の女が現れた。人でないのは容易に想像できた。何故なら、瘴気漂うその場所に唯の人間が訪れる事は既に出来なくなっていたからだ。
「──良いものみーつけた!」
女は容易く池の中から剣を拾い上げる。
それと同時に麗しい美女の顔が剣に映し出された。その女の顔を目にして明鈴は凍りついた。その美女こそ、明鈴を嵌めたあの玉という妖狐であったのだ。




