籠 其の二
「──主は嵌められたのだ」
剣の霊はそう語る。
鏡の様な刀身の中に朗らかな少年の姿が浮かび上がる。彼と共に彼の家族や友人らしき人々の姿も映し出されていた。
瞬く間に少年は成長し、凛々しい青年へと変わっていく。それだけの年月が経ったのだろう。
その月日はきらきらと煌めいていた。
しかし、その日々は続かなかった。
戦が起きたのだろうか段々と彼の表情は苦悩の表情が多くなり、血腥い戦いが多くなる。
それでも彼は強かった。周囲を兵に囲まれても彼は戦いに勝ち続けた。
彼は気が付いていただろうか。そんな彼を妬む視線に。
「──主はお前と同じ魔眼を持っていた」
明鈴は「えっ」と剣の霊を仰ぎ見た。
「千里を見通す目だ。お前の邪眼程強力ではないが、その力を使って戦場に立ち勝ち続けたのだ。それを妬む者も多かった」
剣の霊は俯く。
「その時の私は唯見ているだけしか出来なかった。それを主に警告する事も守る事も」
とうとうその日はやって来る。
轟々と燃える炎は彼等の家を呑み込み、彼等を焼いた。生き残った者は無惨に殺され、腕を切り取られた。その大半が子供と女だった。
「ゔっ……」
二度目とはいえ明鈴は目の前の凄惨な光景に嗚咽を漏らした。そっと彼女の肩に剣の霊の手が添えられる。
「見ろ」
彼は容赦無く明鈴に顔を上げさせた。凄惨な光景の中明鈴の目に明らかに禍々しい何かが映った。
「あれが……?!」
黒い靄が一箇所に集まっている。そこには先程、集められた無数の手があ無造作に竹で編まれた籠の中に入れられていた。
──なんて禍々しい!
その籠の後ろに立つ人物が目に入った。黒い靄を全身に纏いニタニタと嗤う姿に明鈴はぞっとした。
「あれは呪詛師だ」
剣の霊がつぶやいた。
「じゅそし……?」
明鈴が聞き返せば、彼は酷く冴冴えとした目で睨みつけた。
「呪いで人に災いを齎す者だ」
明鈴はひゅっと息が詰まるのを感じた。
それはまるで自分の事のようではないか。見たものを塵へと変える禍々しい呪いの目を持つ自分は呪詛師と言われるものと相違ないのではないか。そう感じたのだ。
「奴とお前は違う」
明鈴の考えが伝わったのだろう。剣の霊は空かさず否定した。
「お前は望んでその力を得た訳では無い。あの様な輩は皆望んでその術を身に付ける。大抵の奴は人を苦しめることに快楽を感じる。だが、お前は違うだろう?」
彼の言葉は明鈴の慰めなどでは無く、ただ事実を述べているだけの様だった。
再び目眩がして、場面が変わった。




