籠 其の一
草木も眠る丑三つ時。
暗闇の中に炎が一つ浮かび上がった。この世のものとは思えない黒く中心の青い炎、熱さを感じさせない炎の周辺は逆に冷え冷えとしており周囲の温度を下げていた。
ぶるりと体を震わせ、梁明鈴は目を覚ました。
例の騒動があった後の事。
前当主夫人の逝去は梁家に衝撃を与えたものの、元々病気療養中であった事も相俟ってそこまで大きな騒ぎにはならなかった。勿論事実は少数の者しか知り得なかったが。
明鈴を唆した妖狐のこともあり、暫くの間は大人が彼女側に常に控えていた。しかし、今は真夜中で彼女の周囲には大人は誰もいない。
浮かび上がった炎を明鈴がじっと見つめているとその炎は一際大きく燃え上がり人の形を取った。炎と同じく青い冴冴えとした瞳で彼女を見つめる角の生えた青年へと姿を変えたのだ。その姿に明鈴は見覚えがあった。それはあの呪いの剣に宿っていた剣の霊だった。
彼は部屋の隅でじぃっと明鈴を見つめた。明鈴は自分を見つめる彼に話しかけた。彼に聞きたい事があったのだ。
「──貴方の探しているものはどんな形をしているの?」
明鈴の聞きたい事は彼が彼女に探せと言った呪具の行方である。明鈴はそれがどんなものか分からなかったし、探しようがなかったからだ。角の生えた青年の姿をした剣の霊は無表情を崩さずに薄い唇を開いた。
「……箱、いや、籠と言った方が正しいな。見た目は唯の籠だ」
「その中に、……入っているの?」
何がとは敢えて言わなかった。
「ああ」
青年は首肯する。
そして、明鈴の視界が歪む。この感覚にも覚えがあった。剣に触れた時の感覚だ。
剣の霊は再び明鈴に自身の記憶を見せようとしていたのだ。
明鈴はとっさに抵抗しようとしたが、何かに強く引っ張り込まれる感覚に抗う事は出来なかった。それだけで、この剣の霊がどれ程の強いのか幼い明鈴にも理解出来た。
「抗うな」
ピシャリと剣の霊が言い放った。
「お前を害しはしない」
冷たさの中に優しさを感じさせる声だった。明鈴が抗う事をやめると一気に視界が周り、引摺り込まれるのが分かった。
視界の揺れが収まった頃、頭の中に声が響いた。
「──これは紗華という国に剣の霊が持ち込まれる前の話だ。私は剣の霊故どれ程の時が経ったのかは分からない」
剣の霊はそう前置きをした。
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やや茶色がかった髪の青い瞳の青年が顔が映し出された。
「──これが俺の剣か!」
頬を紅潮させ、満面の笑みの少年。彼の姿を見た瞬間、明鈴は何だか泣きたい気持ちになった。




