少女の正体 其の一
「──ところで」
話が一段落した頃、羅雨は意を決して口を開いた。
「今度は何だ?」
少女は軽く目を眇めて問い返した。大方また、丹という男の事に関する質問とでも思ったのだろう。この少女は丹という男を嫌っているのか、先程からそれが表情に如実に表れている。
しかし、羅雨の聞きたい事は丹のことでは無い。
「貴女は何なのですか?」
「は?」
唐突な羅雨の問に少女は酷く間の抜けた声を出した。
実のところ、羅雨は少女の語る姿を観察しながら、少女の正体についても考えていた。
当初、羅雨は紗華の大禍の話が終われば、自然とこの少女──講談師の正体も分かるだろうと踏んでいた。しかし、実際のところ、靄が張れて現れたのは年端のいかない真っ白な少女である。この少女が人ではない事は明白なのだが、羅雨の持つ妖魔の知識だけではさっぱり何者なのか検討もつかなかった。
──答えてくれるとは思わないが……。
正体を明かせば、それは己の弱みを見せるようなものである。人間であっても、それは同様だ。何処其処の誰某と分かれば、それがどんな人物でどんな弱みを持っているかというのは調べれば分かるのだ。
妖魔であれば、尚更だ。自分の弱点を晒すに等しい。
自分にとって有利な状況下にしておきたいなら、正体は隠しておくだろう。
羅雨は平静を装いながら、少女に尋ねた。
「貴女は紗華の大禍に、いえ、梁明鈴とその周囲のものについて詳しい。それは貴女も其処に存在していたからなのではありませんか? けれど、話の中に貴女らしき方は出て来ていない。貴女が語っていないだけかもしれませんが」
少女はくっと笑った。
「その問いに答えると思うか?」
羅雨は素直に首を左右に振った。
「いえ。ですが、一つ言える事があります」
「何だ?」
少女の片眉が器用に上がる。
「貴女は丹と似たような境遇だったのではないですか?」
「私が巫女の一族の者だとでも?」
少女はあんな男と一緒にされるなどとんでもないと、語彙を強めた。周囲の温度が自然と下がる。
──矢張りだ。
酷く嫌そうな顔をした少女のその反応が全てを物語っている。何らかの理由でこの少女は丹に対して酷い嫌悪を抱いている。
「いいえ。そこまでは分かりません。ですが、貴女の一族も何らかの理由で滅んだのではないですか?」
羅雨は記憶力は良い方だと自負している。
そうしてこの話を突き詰めた先に、おもいだしたのだ。この話の中で滅んだ一族は一つだけではない事を。
「呪いの剣の持主の一族も滅んでいますよね」
羅雨がそう告げると少女は目を大きく見開いた。




