ある男の話 其の二
──数年後、寺院を飛び出した丹は立派なろくでなしに成り下がっていた。
金も家もなくふらふらと各地を放浪し、乞食や物乞いの様な真似をしたりしていた。強盗や殺人など大それた事をしでかさなかったのは、丹が元来気弱な性格で大した度胸もなかったからだろう。
丹の小銭を稼ぐ手段と言えば、川や道に落ちた小銭を拾うことや時折、小さな村で易者を装ったりするくらいだった。それでも、血筋か生来の才能なのか適当な事を言っても丹の占いはよく当たるので、町から外れた小さな村や集落ではそこそこ重宝されたので、其処にいる間は食べるに困らなかった。
そんな生活を数年続けていた時、彼は自身の師匠となる人物に出会った。年老いた老婆であった彼女は丹程ではないが、先見の力があった。
彼女は丹が話さなくても、彼の能力を理解しており、彼にその力の使い方を教えた。
それから更に数年経った頃、彼は川辺で彼女の死体を見つけた。
「──婆さん!?」
彼は彼女に駆け寄ったが、その遺体は消えていた。
それは、先見の力で見た彼女の遺体だったのだ。
その時、丹は彼女が近い将来死ぬのだと悟った。それも無惨な形で。
「──おお、そうかい」
急いで老婆のもとに行き、その話をした。彼女から出た言葉はそれだけだった。彼の見た未来が現実になると知っているのにも関わらず。
「婆さん、逃げないのか?」
「師匠とお呼び。逃げても何も変わらんさ」
いや、知っているからこその反応だったのだろう。
「そんな事言うなよ! 今ならまだ助かるかもしれないだろ!?」
丹が訴えかけるが彼女は頑なだった。
「これから占い師を集めて周る奴が現れる。お前はそいつから必ず身を隠せ。いいね」
「何いってんだよ?」
老婆の口から告げられた内容に丹は泣きそうになった。老婆は丹が見た未来を既に見ていたのだ。
「お前はお逃げ。そして、お前はお前がかつて見たという黒い獣に慈悲を乞うんだね」
それが老婆の遺言となった。
それから丹は占い師を探しているという者から身を隠し続けた。老婆の遺体が見つかると密かに埋葬し、村を後にした。
その後は元の放浪生活へと戻った。
一時期は寺院に帰ろうと思ったが、既に十年近く経っており、今更どんな顔をして戻れば良いか分からなかったのだ。
放浪生活をする中で、丹はとうとう黒い獣に出会った。気が付けば、丹はその獣の前で恥も外聞もなく、土下座をし叫んでいた。
「──何でもします! 命だけはお助けを!!」
衆目の中、うら若い少女の姿をした黒い獣に酷く冷たい目を向けられたのは言うまでもない。




