目的と結果
「─では、その幽鬼が梁明月の声をしていた訳ですね!」
羅雨がキラキラとした瞳で尋ねると少女は頷いた。
「そうだ。まあ、生前の無月を知る者は数少ない。声が多少変わったところで、気付く者はいなかったろう」
だが、何年も女が男を演じ続けるのは難しかっただろうと少女は告げた。
「にしても、随分と都合良くそんな幽鬼を見つけられましたね」
「そうだな。あれは何の縁か、ふらりと花精の住処に迷い込んだのさ。彼女はその幽霊を除霊するため呼ばれたのよ。思いの外、気の良い幽鬼出合ったらから利用したに過ぎない。まあ、互いに利があったのだから運が良かったのだろう」
羅雨は奇々怪々には強い興味を持っていたが、運命というのは信じてはいなかった。しかし、彼女成し遂げた事を思うと運命の巡り合わせがあった様にも思えた。
「はぁ。何だか貴女の話を聞いていると梁明鈴という人は並々ならぬ幸運の持ち主だった様に感じます。女伊達らに優秀な人材を集め、黄家に報復を成し遂げたのですから」
しかし、少女はそれを花で嗤った。
「それは違うな。彼女は、いや彼女の兄もだが、非常に強かだったのだ」
「兄? 梁篤明ですか?」
「いいや? 梁篤実の方だ」
羅雨は目を瞠った。人は見かけに寄らないとはこの事だ。
勿論、梁篤実の名も浮かんだが、彼は非常に気弱で大それた事が出来るとはとても思えなかった。
「では、黄家への報復は兄妹で仕組んだこと、ということですか?」
確かに彼等の行動に違和感があった事も事実だ。例えば、無関係な張皓然を巻き込んだ事。
「半分正解で半分外れといったところだろうな」
「どういう事ですか?」
羅雨は首を傾げた。
「彼女と彼女の兄とは目的は同じでも望む結果が違ったのだ」
「では、二人は仲違いしていた?」
話の中ではとても仲の良い兄妹に思えていたが、そこには身内の泥々としたものがあったのかと思うとぞっとした。
「いいや。互いに己が求める結果の為に時には協力し、時には相手の裏をかこうとしただけだ」
羅雨は目を丸くした。
──理由が分からない。
「……仲違いをしていた訳では無いなら、相手を出し抜いてでも己の求める結果を求めた理由とはなんだったのでしょうか?」
その問に少女は少し沈黙してから口を開いた。
「この話は最終的にどうなった?」
「え、梁明鈴が紗華の大禍となった、或いは生み出した……?」
そこでふと考えた。
──これは何方が求めた結果だろうか?
「これは梁明鈴が求めた結果ですか?」
何となくそう考えた。羅雨の問に少女は頷く。
「何故、その選択をとったか理由をお聞きしても?」
「いいだろう」
──ドドン!!
少女の答えとともに銅鑼の音が響いた。




