声真似
──矢張り、梁明鈴が梁明月に成り代わっていたのか……。
そこで「はて?」と疑問が羅雨の頭を過った。
──女性が男性の振りをしたとしても、体形や仕草、特に声などは誤魔化せるとは思えない。梁明鈴は梁明月として張皓然と接触している。違和感は無かったのであろうか?
そう考えたのである。
身内ならば、知っていたというのは十分に考えられるが、張皓然は梁明鈴としても会っているのだから、何かしら違和感を感じてもおかしくはない。しかし、話の中に彼が違和感を感じた様子は無かった。
「おや、何か言いたそうだな」
羅雨の様子に気が付いた少女がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。羅雨の疑問に気が付いたらしい。羅雨が己の考えを述べると、彼女うんうんと満足げに笑った。
「良いところに気がついたな! 奇々怪々に強い興味を持っているお前なら、声を真似る妖魔の存在も知っておろう」
「ええ、勿論!!」
羅雨は空かさず答えた。人の声を真似る妖魔は天邪鬼、山彦などがいる。他にも狢や狐狸の類も人の声を真似る事があるという。
それがどうしたというのだろうかと思ったものの、ある考えが浮かび羅雨は目を瞠った。
「まさか、梁明鈴という人物はそのような妖魔を使役していたのですか!?」
「如何にも!」
少女は羅雨の反応に得意気に頷いた。その返答に羅雨は興奮のあまり、身を乗り出しそうになるのを必死で堪えていた。
「彼女、梁明鈴は武人の家門にありながら呪術師としての道を極めていたと!?」
呪術とは、神や精霊などの超自然的力や神秘的な力に働きかけ、種々の願望をかなえようとする行為である。素養がなければ呪術師になる事すら難しいだろう。
「正確には、呪詛師であったがな」
「なんと!」
羅雨は更に目を輝かせた。日々奇々怪々を追い求める羅雨には喉から手が出る程欲しい能力である。羅雨は梁明鈴という人物に強い興味を抱かずにはいられなかった。何せ、彼女が今羅雨の追い求めている紗華の大禍であったのだから。
「その声真似をする妖魔に興味はあるかね?」
羅雨の反応に気分をよくした少女は羅雨に尋ねた。羅雨は直ぐ様頷いた。彼女は満足そうに笑うと、その場に座り直した。
「お前に特別に話してやろう!」
その言葉と共に銅鑼の音がドドンと響いた。
──これはある幽鬼の話である。




